原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

いまこの時に生きている喜びを感じさせてくれるプログラムが続きます。おとといまでキャメロン・グレイヴスが、まばたきするのも惜しくなるようなステージを繰り広げていましたが、昨日からはカッサ・オーヴァーオールが五感を刺激する音宇宙でブルーノート東京を満たしています。2018年にアート・リンゼイのバンドで登場したことがある彼が、今回ついに自身のグループを率いて来日しました。

故ジェリ・アレン（20世紀後半のジャズと21世紀前半のジャズをつなぐ重要人物のひとりといっていいでしょう）のバンドで頭角を現し、ピーター・エヴァンス、ヴィジェイ・アイヤー、テオ・クロッカー（セオ・クローカーという表記も。キャブ・キャロウェイ・オーケストラ等で活動したトランペット奏者、ドク・チータムの孫）などジャズ界の精鋭と共演。オノ・ヨーコ、ジョン・バティステ、テリ・リン・キャリントン等からも才能を必要とされるミュージシャンなど、そういるものではありません。ドラム、作曲、ヴォーカル、ラップ、プロデュース、すべてが"異能"という言葉にふさわしいはずです。ソロ・アルバムにはリンゼイやロイ・ハーグローヴを迎えた2019年の『Go Get Ice Cream And Listen to Jazz』、来月ジャイルス・ピーターソンのレーベル"Brownswood"から国内盤がリリースされる『I Think I'm Good』（ジョエル・ロス、BIGYUKI、アーロン・パークス、ヴィジェイ・アイヤーらが参加。ジェリ・アレン追悼曲も収録）があります。

バンドスタンドには左からジュリアス・ロドリゲス（アコースティック・ピアノ、フェンダー・ローズ）、モーガン・グェリン（テナー・サックス、EWI、ベース、ヴォーカル）、カッサ、そして2018年のアート・リンゼイ来日公演でカッサと一緒だったポール・ウィルソン（キーボード、エレクトロニクス）が並びます。セットリストは新作からの「Visible Walls」、「Show Me a Prison」、前作からの「My Friend」（歌詞を一部変え、ブルーノート東京にやってきたオーディエンスのために歌われました）、「Who's On The Playlist」等で構成されていました。先週登場したトータス同様、全員がマルチ・ミュージシャンなので、楽器の役割分担も細かく変化するのですが、当然ながらそれは実にスムーズに行なわれ、曲間の緊張感も下がることはなく、個人的にはワン・セット通じて"2020年2月17日、ブルーノート東京"という表題の壮大で即興的な組曲を味わっているような気分になりました。途中、ジョン・コルトレーン作「Giant Steps」を彷彿とさせる激しい転調を持つセクションとワン・コードによるセクションが同時に進行し、そのうえでジュリアスが強烈にリズミカルなフレーズ（彼はドラマーとしても知られています）を生ピアノから紡ぎ出す箇所のスリルには驚愕するしかありません。カッサはボンゴや極小のハイハットを取り入れた独自のドラム・セット（個人的にはミルフォード・グレイヴスのそれを思い出しました）による音色をプログラミングとぶつけて、"リズムのモアレ"と呼びたくなるような律動を創出。舞台左寄りの中央後方には和太鼓も置かれ、モーガンやカッサが図太い響きで彩りを加えました。

「ジャズと自由は手に手を取って歩く」と言ったのは確かセロニアス・モンクですが、ぼくはこのバンドのパフォーマンスを「人力とテクノロジーが手に手を取って自由を謳歌するジャズ」だと感じました。なんという気持ちよさでしょう。全身の細胞が活性化していくのがわかります。公演は本日も開催！

(原田 2020 2.18)

Photo by Tsuneo Koga