原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

最新作『グリーン・バルーン』がグラミー賞最優秀新人賞にノミネート。目覚ましい注目を集めるユニット、タンク・アンド・ザ・バンガスがついに初来日を果たしました。すでにラジオ出演やブルックリンパーラーにおけるミニ・ライヴを行ない、十二分にテンションを高めたうえでのブルーノート東京公演です。場内はおそらく彼らと同世代であろう層を中心に超満員、最高の音楽を届けたいというミュージシャンの気迫と、一音も聴き逃してなるものかというオーディエンスの意気込みが一体化したかのような熱狂的かつ感動的な一夜となりました。

タンク・アンド・ザ・バンガスは2011年、"音楽の都"ルイジアナ州ニューオリンズで結成されました。13年にファースト・アルバムを発表し、17年にはNPR「タイニ―・デスク・コンサート」で6000人の参加者の中から満場一致の称賛を受けて出演権を獲得しています。前述『グリーン・バルーン』は老舗レーベルのヴァーヴ・フォアキャスト（'60年代にはフランク・ザッパやローラ・ニーロ、比較的近年ではジェシー・ハリス等が作品を残しています）からの発売で、グラミーではビリー・アイリッシュやリゾらの新作と競いました。

中心人物は、詩人としても活動するタリオナ・タンク・ボール。the Stranger.com では「次代のローリン・ヒル」と称賛され、ノラ・ジョーンズの近作シングル「Take It Away」でも心地よいコラボレーションを繰り広げている才媛です。ライヴではポエトリー・リーディングを織り交ぜながら（ぼくはすべてを理解できるほど英語に堪能ではありませんが、卓越した抑揚やリズム感に触れるだけで十分に満ち足りました）、表情豊かな"声使い"で楽しませてくれます。そしてステージ下手（しもて）側にいるもうひとりのヴォーカリストは、ティア・ヘンダーソン。彼女の柔らか目の声と、タンクの硬質な声による掛け合いはすこぶる生々しく、それを凄腕リズム・セクションが煽りに煽ります。ギターのダニエル・アベルはトレブル（高音）を効かせたハード・ロック調のギター・プレイで魅了し、ベースのジョナサン・ジョンソンは"これはレゲエのライヴなのか？"といいたくなるほどの超重低音を放出します。そしてドラムスのジョシュア・ジョンソンはサステインを抑えたシンバル、生（タム）の音と電気（パッド）の音の絶妙なミックスでサウンドに限りない彩りを付け加えます。ステージ背後のスクリーンにはさまざまな映像が映し出されていましたが、とにかくこのバンドの音はカラフル、そして血の気が多いです。ジャズ、ファンク、ロック、ヒップホップ、クラシック、ラテン、ポエトリー・リーディング・・・ミクスチャーってこんなにエキサイティングなことだったのか、なるほどフィッシュのトレイ・アナスタシオも惚れ込むわけだ、と、ぼくは再認識させられました。演目は「Spaceships」、「Smoke.Netflix.Chill」、「Nice Things」など『グリーン・バルーン』収録曲が中心。「The Brady's」から「Smells Like Teen Spirit」（もちろんニルヴァーナのカヴァー）に流れ込む、観客巻き込み型の怒涛の展開は、誰の体にも爽快な汗をかかせることでしょう。

公演は本日までですが、近い将来、この痛快な気鋭たちは必ず戻ってきて、さらに長い日程の来日ライヴ・スケジュールを組んでくれるに違いありません。
(原田 2020 2.1)

Photo by Tsuneo Koga