原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

スティング、ポール・サイモン、アレサ・フランクリン、アンドレア・ボチェッリなど数多くのスターとコラボを行ない、自身のアルバムもリリースごとに全米ジャズ・チャートの首位を獲得。抜群のテクニックと歌心とエンタテインメント性を持つトランペット奏者、クリス・ボッティの5デイズ10セット連続公演が昨日から始まりました。ボッティの持つレパートリーは本当に多彩で、ブルーノート東京の店内にいながらにして音楽の世界旅行に出ているような気分を味わわせてくれます。

★ジャンルを超えて有名曲をピックアップし、新鮮に解釈
オープニングはクラシック曲「Ave Maria」。エコーのかかったトランペットの音色が、美しいメロディをドラマティックに表現します。かと思えばナット・キング・コール他がスロー・テンポで歌った「When I Fall in Love」をファンク調にアレンジして火の出るようなトランペット・ブロウを披露。マイルス・デイヴィスが名演を残した「Blue in Green」ではミュート・トランペットを用いて、サックス奏者アンディ・スニッツァー（ローリング・ストーンズのホーン・セクションの一員だったこともあります）とリリカルな音の対話を繰り広げました。
さらに「For All We Know」では客席に入り込んで絶品のバラード・プレイで酔わせ、かと思えばレッド・ツェッペリンの「Kashmir」まで飛び出して、今回初来日というヴァイオリン奏者のエリン・シュレイバーが華麗なソロを聴かせます。さらに終盤ではアート・ブレイキー＆ジャズ・メッセンジャーズのファンキー・ジャズ定番「Moanin'」、そしてルイ・アームストロングの「What a Wonderful World」をリー・ピアソンの歌声（+オーディエンスの合唱）つきで。こんな欲張りなプログラムを、一つのショウとしてばっちり聴かせてくれるバンドが、ほかのどこにあるでしょうか。ボリュームある肉料理も、ヘルシーな野菜料理も、飛び切りのスウィーツも、すべて極上の皿に盛られた特別料理といった感じ。しかも、定評のある名シェフたちが、目の前で料理してくれるのです。

★9人のメンバーが生み出す、果てしない音の厚み
今回のバンド・メンバーは9人。彼らが入れ代わり立ち代わりステージに現れ、バラエティに富んだショウを展開します。しかもエルダー（自身のバンドでも何度か「ブルーノート東京」「コットンクラブ」に出たことがあります）はアコースティック・ピアノとシンセサイザー、レジー・ハミルトンはアコースティック・ベースとエレクトリック・ベースとヴォーカル、リー・ピアソンはドラムスとヴォーカルを兼任するので、ライヴの現場では人数分以上のヴァリエーションを楽しむことができます。熱いファンクのあと、ごく自然にリリカルなバラードに移り、さらにゴキゲンにスウィングするストレート・ジャズへ。そのグラデーションには、驚嘆せずにはいられません。

★現役ジャズ・オルガン最高峰、ジョーイ・デフランセスコが緊急参加
直前になって参加が決定したジョーイ・デフランセスコの存在も、この公演の大きなポイントのひとつです。マイルス・デイヴィス、デイヴィッド・サンボーン、ヴァン・モリソンなどと共演、トランペットを吹くこともあるジョーイですが、今回はオルガンに専念。「You Don't Know What Love Is」では左手ベース・ラインと右手アドリブの驚異的な連携で魅了し、「Moanin'」では左足にベース・ラインを任せて、両手でオクターヴ奏法やブロック・コードを繰り広げました。ジャズ・オルガン・ファン、オルガン志望者にとっても、今回のクリス・ボッティ公演は必見といえましょう。
(原田 2019 2.22)

Photo by Takuo Sato