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DONNY McCASLIN

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原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO


音楽シーンの未来を開拓するテナー・サックス奏者、ダニー・マッキャスリンがリーダーとして通算2度目の登場中です。昨年発表された話題作『Blow.』収録ナンバーが至近距離で次々とプレイされていくのはまさに圧巻! ジャズやロックやエレクトロニカの持つエキサイトメントが重なり合い、ぶつかりあい、一丸となって聴く者に突進してくる感じです。

共演メンバーはジェフ・テイラー、ジェイソン・リンドナー、ティム・ルフェーブル、ザック・ダンジガー。ジェイソンとティムは前回から引き続きの参加です。今回の公演の最も大きな特色は、"ヴォーカルがたっぷりフィーチャーされていること""マッキャスリンも歌を歌うこと"でしょうか。リード・ヴォーカルとギターを担当するジェフ・テイラーは、『Blow.』のほかに2016年リリースの大傑作『Beyond Now』にも参加していた才人。ほかにマーク・ジュリアナのビート・ミュージック・プロジェクトにも関わっており、今年は自身のソロ・アルバム発表も期待できそうです。ドラムスのザック・ダンジガーはマッキャスリンやリンドナーと同様、ビ・バップからコンテンポラリーまで対応できる万能の才人。ルフェーブルとのユニット"Boomish"でも数枚の作品を発表しています。

『Blow.』の国内盤には12トラックが収録されています。この中で、個人的にライヴで最も聴いてみたかった1曲が「Break the Bond」でした。組曲調のドラマティックなムードを持つ、とんでもないテクニックとメンバー間の呼吸(ひと息どころか、"1/8息"ずれるだけで、アンサンブルは崩れてしまうことでしょう。そのくらい繊細なタイミングが求められるナンバーだと思います)が感動を呼び起こす楽曲です。ぜひライヴでもプレイしてくれるといいなと思っていたら、ついに中盤で飛び出しました。ちょっとショパンの「プレリュード 第4番ホ短調」を思わせる物悲しいメロディをマッキャスリンが淡々と吹く導入部から徐々に白熱し、音量MAX状態の中、それを突き破るかのように飛び出す鋭く清新なリンドナーのアコースティック・ピアノ・ソロへ。やがて彼の手がエレクトリック・キーボードの上にも置かれると同時に、ザックが"スッチースッチー"とハイハットを刻みだし、宇宙ディスコと呼びたくなるような展開へともつれ込みます。これ、ディスクにはなかったパートに、ぼくには聴こえました。ベンド奏法(音程を上下させる)も取り込んだリンドナーの神技を受けて、マッキャスリンがメタリックな音色とエフェクター効果をからませながら咆哮、クライマックスまで達したと思いきや、曲頭に登場する抒情的なメロディが再び演奏されてエンディングにもつれ込みます。

ジェフの歌唱では「Tiny Kingdom」における尋常ではなく抑揚に富んだ表現に"たまんねえ"と声をあげたくなりました。シアトリカルという言葉を当てはめたくなるような歌い方に、個人的にはふとマイク・ウェストブルック・オーケストラのフィル・ミントン、ジャック・ウォラスやデイヴィッド・フュージンスキーと共演していた頃のディーン・ボウマンを思い出してしまったのですが、とにかく気分を解放してくれるシンガーです。

開演前、一瞬「歌ものが増えることで、ひょっとしたらサックスの出番が減るのでは?」とも思ったのですが、それは杞憂でした。サックス、キーボード、ベース、ドラムス、ヴォーカル、すべてが満喫できます。ダニー・マッキャスリン、やっぱりすごい男です。公演は明日2月9日まで続きます。生きている音楽を愛する方、必見です!
(原田 2019 2.8)


Photo by Yuka Yamaji

SET LIST

2019 2.7 THU.
1st
1. WHAT ABOUT THE BODY
2. NEW KINDNESS
3. TINY KINGDOM
4. BREAK THE BOND
5. EYE OF THE BEHOLDER
6. GREAT DESTROYER
7. CLUB KIDD
8. BACK TO THE WORLD
 
2nd
1. WHAT ABOUT THE BODY
2. NEW KINDNESS
3. CLUB KIDD
4. TOKYO
5. GREAT DESTROYER
6. TEMPEST
7. MOM AMERICANA
8. FAST FUTURE
EC. LOOK BACK IN ANGER

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