原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

強烈な音の塊を浴びて、ボディー・ブロウを食らったような気分になりました。連日の酷暑でだらけ気味だった心と体が、一気に引き締まったような感じです。

八面六臂の活動を続けているギター奏者マーク・リーボウが、気鋭ミュージシャンとのバンド"セラミック・ドッグ"で来日中です。「ブルーノート東京」ではちょうど10年前の2008年に矢野顕子とのデュオ公演を開催したことがあり、ほかにもキューバの巨星アルセニオ・ロドリゲスに表敬した"偽キューバ人たち"、70年代フィラデルフィア・ソウルへの愛情をにじませた"ヤング・フィラデルフィアンズ"などいくつものプロジェクトで日本のいろんな会場を沸かせてきたマークですが、今回の彼はいっそう過激にギターを弾きまくり、歌を歌い、言葉を投げつけるようなポエトリー・リーディングも行ないます。ライヴを見終えた後、快いカタルシスに包まれること間違いなしといっていいでしょう。

ベース、キーボード、ティンバレス、サイド・ギター、コーラスを忙しくこなすのはパキスタン系アメリカ人のシャザード・イズマイリー。ルー・リード、ローリー・アンダーソン、トム・ウェイツ、ジョン・ゾーン、ビリー・マーティン（先ごろまで来日していました）など数々の先鋭的ミュージシャンと共演を重ねてきました。そしてドラムスとコンガとコーラスはチェス・スミスが担当します。ティム・バーン、デイヴ・ホランド等アコースティック・ジャズの重鎮とも豊富な共演歴を持ち、ECMレーベルから傑作リーダー・アルバム『The Bell』を出したことも記憶に新しいのではないでしょうか。この日のドラム・セットはものすごく独特で、2枚のシンバルがあり得ないほど高くセッティングされています。パフォーマンス中、チェスがいかに長い腕を伸ばしてこのシンバルを叩いてゆくかも大きな見どころと言っていいでしょう。なお、シャザードとチェスはシークレット・チーフス３というユニットでも演奏しています。

曲目は最新作『ホワイ・アー・ユー・スティル・ヒア?』のもの、および9月リリース予定の"反トランプ"ソロ・アルバム『Songs of Resistance 1942-2018』からのものが中心。の『ホワイ～』に関しては非常にガレージ～パンク・ロック的なミキシングだったという印象が個人的にはあるのですが、ライヴではよりクリアーに各楽器のニュアンスが伝わります。ベースとコンガの妖しい響きに導かれる前半とアフロ・ビート的な後半の対比が鮮やかな「Pennsylvania 6 6666」が計り知れないスリルを運び、20世紀アメリカン・フォークの超重要グループ＝カーター・ファミリーの静謐な「When the World's on Fire」の次に激しさをぶちまけるようなパンク調ナンバー「Fuck La Migra」を持ってくるあたりの、あまりにもメリハリに富んだ曲順にも唸らされました。舞台上手側のマークと下手側のチェスが向かい合いながら演奏し、そこに挟まれたシャザードが実にクールに各楽器を操っている姿も印象的でした。

公演は本日も行なわれます。ガツンと来る硬派なサウンドを、ぜひ全身で体感ください！
(原田 2018 7.25）

Photo by Tsuneo Koga