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BILLY CHILDS QUARTET

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原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

最新アルバム『Rebirth』で通算5度目のグラミー賞を獲得したばかりの"音楽の達人"、ビリー・チャイルズが気鋭ミュージシャンとのカルテットで来日中です。'70年代から第一線で活動し、アコースティック・ピアノ、エレクトリック・キーボード、作曲(ジャズと現代クラシック)、編曲すべてにおいて目覚ましい業績をあげているビリーですが、この公演ではアコースティック・ジャズを存分に楽しませてくれます。

共演者は先日カート・エリングと来日したばかりのクリスチャン・ユーマン(ドラムス)、昨年サラ・マッケンジーのバンドでも卓越したプレイを聴かせたアレックス・ボーナム(ベース)、そしてサックスのデイナ・スティーブンスです。デイナはマーカス・ストリックランドやウォルター・スミス(共演盤もあります)と同世代、これまで8枚のリーダー作をリリースしており、最新の『Gratitude』ではブラッド・メルドーやジュリアン・ラージを迎えて豊穣な音楽を繰り広げています。テナー・サックス、バリトン・サックス、EWIも手掛けるマルチ奏者ですが、ぼくが観た初日のセカンド・セットではアルト・サックスとソプラノ・サックスを吹いていました。

ライヴの曲目は、当然ながら『Rebirth』収録曲中心。グラミーの"最優秀ジャズ器楽アルバム賞"に収められていたナンバーが、CDに収められたときよりも一層拡張・拡大されて、とんでもない生々しさを伴って耳に迫ってきます。"私の自作にはコンプリケイテッド(複雑な)ところがあるからね"とビリーはMCで言っていましたが、ぼくはこれを多面的・重層的と置き換えたくなりました。とにかく曲の展開が面白いのです。一定のコード進行やビートに乗ってアドリブをリレーする・・・というやり方は現代のジャズから本当に少なくなったような気がしますが、それをJ.J.ジョンソンやフレディ・ハバードなど20世紀のレジェンドと共演経験のある大ベテランのビリーが実践しているのは非常に心に響きます。タイトル曲「Rebirth」におけるビリーのソロを例にとると、最初は単音を生かしてメロディアスに、やがてトレモロ奏法を用いた打楽器的な展開に移行、ドラムスの煽りが強まると同時にピアノも一層アグレッシヴになり、密集和音も混じってきます。そして白熱したところでユーマンが"バシーン"とアクセントを一発。ここで盛大な拍手が起こると同時にビリーは次のリズム・パターンを左手で提示して繰り返し、そこにユーマンが自在に絡みます。"いったいどう展開していくのだろう"と思っているとアレックスのベース・ラインが地響きを立て、デイナのブロウが勢いよく飛び込んできます。このナンバーに限らず、ビリーのコンポジションは1曲の中に何曲分のカラーが詰め込まれたかのように変化に満ちていて、途方もない満腹感を与えてくれるのです。

アレンジャーとしてのビリーの魅力は前作『Map to the Treasure: Reimagining Laura Nyro』(全米ジャズ・チャート1位)でさらに広く知れ渡ったことと思いますが、この日はスタンダード・ナンバーの「It Never Entered My Mind」を、異様に研ぎ澄まされたリハーモナイズで聴かせてくれました。彼はマルグリュー・ミラー(ビリーの2歳上ですが、2013年に亡くなってしまいました)がロサンゼルスの小さなクラブでこの曲を演奏しているのを聴いて感銘を受け、それからレパートリーに入れることにしたのだそうです。マイルス・デイヴィス、ビル・エヴァンス、オスカー・ピーターソンなど数々の伝説的ミュージシャンが録音を残したナンバーですが、ビリーがライヴで、すばらしく粒立ちの良いタッチで届けた「It Never Entered My Mind」は、副題に"2018"とつけたくなるほど、現代の息吹に溢れていました。

本編終了後には、グラミー受賞を祝してケーキが用意され、満面の笑顔のビリーがロウソクの炎を一息で吹き消すシーンもありました。公演は21日まで行われます。現代アコースティック・ジャズの真髄のひとつが、ビリー・チャイルズ・カルテットにあります。

(原田 2018 4.19)

※4.20 fri. & 4.21 sat.のみ、デイナ・スティーヴンス(サックス)から吉本章紘(サックス)へメンバーが変更となります。


Photo by Yuka Yamaji

SET LIST

2018 4.19 THU.
1st
1. REBIRTH
2. BACKWARDS BOP
3. DANCE OF SHIVA
4. PEACE
5. THE STARRY NIGHT
EC. AARON’S SONG
 
2nd
1. REBIRTH
2. BACKWARDS BOP
3. DANCE OF SHIVA
4. IT NEVER ENTERED MY MIND
5. THE STARRY NIGHT
EC. THE WINDMILLS OF YOUR MIND

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