原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

来て本当によかった！　新鮮で輝かしい才能に触れた！

このライヴにいらっしゃる方は、きっと誰もが大きな満足感と共に会場をあとにすることでしょう。あのスレンダーなルックスから、あんなに骨太でふくらみのある歌声が飛び出すのですから驚異です。話題のシンガー、モーガン・ジェイムスが昨日からディープでソウルフルなショウを繰り広げています。R&B、ブルース、ブルース・ロック、カントリー、ファンク、ソウル・ジャズを、一夜にして楽しむことができるのです。

古くはマイルス・デイヴィス、比較的近年ではフランチェスコ・トリスターノ、ダミアン・エスコバー、ブラクストン・クックなどが学んだジュリアード音楽院の卒業生。超大物ミュージカル女優、バーバラ・クックに師事しました。名門モータウン・レーベル（先日ブルーノート東京に出演したばかりのBJザ・シカゴ・キッドもここの専属です）の創立者ベリー・ゴーディJr.の目にとまり、『モータウン：ザ・ミュージカル』ではティーナ・マリーの役に抜擢されました（2013年公演分）。ぼくは2014年にブロードウェイで観劇しましたが、残念ながらモーガンのパートは別の役者に替わっていました。

サポート・メンバーはオルガンのブライアン・シャレット、ギターのダグ・ワンブル、ドラムスのビル・キャンベルの3人。ブライアンはジョニ・ミッチェル、ジョージ・コールマン（サックス奏者メリッサ・アルダナの師匠）、ジェイモー（オールマン・ブラザーズ・バンド）等との共演歴があり、自身のプロジェクトでは超正統派のオルガン・ジャズを繰り広げています。ビルはノラ・ジョーンズ、カート・ローゼンウィンケル、ミシェル・ンデゲオチェロらと共演、アラン・ハンプトンとのユニット"Breastfist"は、スナーキー・パピーのマイケル・リーグが2012年に始めたレーベル「GroundUP Music」から作品をリリースしています。そしてダグはカサンドラ・ウィルソン、ウィントン・マルサリス、サシャル等のサポートをこなし、自身のアルバムもこれまで5作品出している熟達のギタリスト。2003年のデビュー作『Country Libations』はモダン・ジャズとカントリー的要素の混ざり具合が絶妙で、当時働いていたジャズ雑誌で絶賛したことを思い出します。

腕の確かなミュージシャンに、抜群の歌唱力を持つヴォーカリストが乗り、しかも1曲目が「I Put a Spell on You」です。モーガンはニーナ・シモンの歌唱が大のお気に入りのようですが、スクリーミン・ジェイ・ホーキンスの歌う同曲がジム・ジャームッシュ監督映画『ストレンジャー・ザン・パラダイス』に使われたことをご記憶の方も少なくないでしょう。"お前に魔法をかけてやろうかぁっ"とすごむようなホーキンスに対し、モーガンはちょっと力を抜いて"あなたに魔法をかけてあげるわ"風に迫ります。マイクを離れても響く豊かな生声、見事なヴォイス・コントロールに裏付けられた超ロング・トーン。このオープニング・ナンバーで彼女は観客の心を掴み切ってしまったようです。

以降、ニーナ・シモン・トリビュート・アルバム『Morgan James Live: A Celebration of Nina Simone』、シンガー・ソングライターとしての才能を感じさせるオリジナル・アルバム『Hunter』『Reckless Abandon』からの曲をたっぷり歌い綴ってくれました。ダグはフル・アコースティックとソリッド・タイプのエレクトリック・ギターを持ち替え（後者での繊細なアーミングも見事でした）、ときにサイド・ヴォーカルでも活躍。ビルはハンド・ドラム（スティックではなく手でドラムを叩く）でも歌を盛り立てました。さらにブライアンは曲によってはモダン・ジャズそのもののアドリブを聴かせ、同時にバンドのベース・パートを自身の左手ひとつでまかないました。自身の曲をカヴァーされることをあまり好まなかったというプリンスも"公認"したという「Call My Name」も、プログラムのラスト近くでしっかり披露。冒頭のアカペラ部分は、まさしく絶品でした。

公演は17日まで続きます。魂に触れる歌と音楽を、ぜひご体感ください。

(原田 2018 3.16）

Photo by Takuo Sato