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JACOB COLLIER presented by Quincy Jones Productions

artist JACOB COLLIER

REPORT

世界を魅了するワンマンバンド、ジェイコブ・コリアーの進化が止まらない

 1994年生まれの新世代アーティスト、ジェイコブ・コリアー。YouTubeにアップされたワン・マン・バンドとも称される一人多重録音のパフォーマンスで注目をあつめ、昨年にはクインシー・ジョーンズのレーベル「Qwest」からデビューアルバム『In My Room』をリリースし、グラミー賞で2部門を受賞。ベッカ・スティーブンス『レジーナ』やスナーキー・パピー『ファミリー・ディナー Vol.2』などでの客演も見逃せない。三度目の来日となる今回は、きっとコーチェラ・フェスティバルを含む大型フェスやグラミー受賞を経て一回り進歩しているジェイコブが観れる、そんな有り体な期待を大きく上回るパフォーマンスが繰り広げられた。

 ブルーノート東京は満員の観客で溢れ、客電が消えてジェイコブがステージへ駆け上がる(本当に文字通りのダッシュ)と、会場からは大きな歓声があがる。ライブはスティービー・ワンダーの「Don't You Worry 'Bount A Thing」からスタート。イントロから彼のトレードマークといえるハーモナイザー(彼自身の声をサンプリングした音源が鳴らせるシンセサイザー)による、うねるような分厚いコーラスが響き、つづく「Close To You」ではワン・マン・バンドならではの、直前までどこへ行くのかわからないようなハーモニーの自在な転調や、はみ出しそうなベースラインに何度もドキドキさせられる。「Don't You Know」では7拍子と5拍子のポリリズムを軽々と乗りこなしながら観客に手拍子を求め、「Saviour」ではステージに歌詞を投影して観客に歌わせるコール・アンド・レスポンスも。きっちりと盛り上げたところでグラミーを受賞した「You & I」をピアノの弾き語りでしっとりと聴かせ、最後はキレッキレのボイスパーカッションが光るガーシュインの「Fascinating Rhythm」で再び客席の盛り上がりも最高潮に。アンコールの「Blackbird」では、ボーカルとハーモナイザーだけのパフォーマンスながら、ステージの終焉を惜しむように何度も何度も観客と掛け合いのコミュニケーションをとっていた。

 観客の手拍子を煽り、ステージの照明が追いつかないほどの速さでステージの楽器のあいだを駆け回って楽器を演奏していく彼の姿に、以前見たときよりもエンターテイナーとして進化したことを確信した。コーラスハーモニーの積み方や、リアルタイムの多重録音とは思えないグルーヴといった一つ一つの要素はとんでもなく複雑なのだけれど、圧倒的なパフォーマンスで極上のエンターテイメントに仕上げてしまう。高音から低音まで滑らかに繋がるボーカルラインや、即興演奏でぐいぐいと枠を拡げられていく楽曲の自由度には、明らかな成長がみられたと思う。何よりもこれだけのステージを繰り広げながら終始笑顔を絶やさず、日本語で「ありがとうございます」と、どこで覚えたのか「あざっす」を使い分けて何度も観客やステージに感謝を述べる無邪気な彼の姿を見ていると、本当に天才なんじゃないかと思えてくる。

 今回のステージを観て、ジェイコブ・コリアーはマルチ奏者ではなく稀代のピアニスト/ボーカリストなのかも知れないと思った。「スティービー・ワンダーが好きな人いる?バート・バカラックが好きな人は?次の曲はイギリスのとある若者が作った曲なんだ。ジェイコブ・コリアーって言うんだけど」と、おどけて見せた彼は、近いうちに本当にそこに並ぶ存在になってしまうかもしれない。

text : 花木洸(はなき ひかる)
1993年生まれ。東京学芸大学在学中より『Jazz The New Chapter』シリーズ、『ミュージック・マガジン』などで執筆。最近はチャールス・ロイドのライナーノーツを書きました。
HP

Photo by Yuka Yamaji

SET LIST

2017 9.25 MON.
1st
1. DON’T YOU WORRY ‘BOUT A THING
2. CLOSE TO YOU
3. HIDEAWAY
4. DON’T YOU KNOW
5. DOWN THE LINE
6. SAVIOUR
7. SMILE
8. FASCINATING RHYTHM
EC. BALCKBIRD
 
2nd
1. DON’T YOU WORRY ‘BOUT A THING
2. CLOSE TO YOU
3. HIDEAWAY
4. DON’T YOU KNOW
5. DOWN THE LINE
6. SAVIOUR
7. YOU AND I
8. FASCINATING RHYTHM
EC. BALCKBIRD

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