原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

ニュー・アルバムも無事完成し、夏のリリースを待つばかり。今年で結成82周年を迎える名門カウント・ベイシー・オーケストラが、今回もブルーノート東京をスウィング一色に染めています。しかも今回は、かなり新味の加わったセットリストです。コンダクターは引き続き、トランぺッターのスコッティ・バーンハートが担当しています。

もちろん「April in Paris」や「One O' Clock Jump」などの大定番も聴かせてくれますが、今回の演目は以前にもましてベイシー楽団OBの書き遺した楽曲が多いように感じられました。フランク・フォスターの「Who,Me?」、アーニー・ウィルキンスの「Basie Power」、フランク・ウェスの「Half Moon Street」、アール・ウォーレンの作曲とされる「9：20　Special」などなど、かなり渋い、しかし長年のベイシー・ファンにはたまらないナンバーが次々と目の前でプレイされていきます。個人的にもうひとつ嬉しかったのは、いわゆる"ニュー・ベイシー"（海外では"新約聖書バンド"と呼ばれる）だけではなく、"オールド・ベイシー"（同"旧約聖書バンド"）のレパートリーも取り入れられていた点です。先に触れた「9：20　Special」と「Moten Swing」がそれに該当しますが、この勢いで現ベイシー・オーケストラには、レスター・ヤングやハーシャル・エヴァンスやジャック・ワシントンやドン・バイアスやバディ・テイトがいた頃の粗削りで白熱したサウンドをぜひ2017年に蘇らせてほしい、と思わずにもいられませんでした。

そして今回、中堅ピアニストのエリック・リードが参加しているのも話題を呼ぶことでしょう。彼はリンカーン・センター・ジャズ・オーケストラ（昨年、同オーケストラの出演した映画「ソング・オブ・ラホール」が国内公開されました）の初期メンバーであり、リーダー・アルバムもインパルス、モージャズ（短期間存在した、モータウンのジャズ部門）等のレーベルにいくつも残しています。ゴスペルのルーツを持ち、セロニアス・モンクの大ファンでもあるリードの参加は正直言って予想外でしたが、随所に挿入される小粋なソロは、必ずや多くのリスナーに好感を持って迎えられることでしょう。

ほかのソリストはスコッティ（トランペット）、マーシャル・マクドナルド、クリーヴ・ガイトン（アルト・サックス）、ダグ・ミラー、ダグ・ローレンス（ともにテナー・サックス）、クラレンス・バンクス（トロンボーン）等。'50年代のベイシー楽団ではフランク・フォスターとフランク・ウェスの"２フランクス"がサックス・バトルを繰り広げましたが、この夜は「9：20　Special」でミラーとローレンスの"２ダグス"が息の合ったツイン・テナーを聴かせました。さらにこの夜は、夏に出る新作から「My Cherie Amour」（アンディ・ファーバー編曲）を一足早く披露。スティーヴィー・ワンダーの名曲が、柔らかなブラスのミュート・サウンドを生かしたエレガントなスウィング・ナンバーに生まれ変わりました。
(原田 2017 2.20）

Photo by Yuka Yamaji