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STACEY KENT @NAGANO CITY ARTS CENTER, Act Space

artist STACEY KENT

REPORT

原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO


絶好調のシンガー、ステイシー・ケントが2月12日からブルーノート東京に登場します。ぼくはそれに先立ち、9日に「長野市芸術館アクトスペース」で行なわれた彼女のライヴに足を運びました。

公演のタイトルは「クラブNCACミステリー・ジャズナイト」。ライヴ会場に到着するその時まで誰が出演するのか観客には一切わからないという、ユニークな企画です。フライヤーにも一切その出演者の名前が書かれておらず、かわりに「このミュージシャンが誰なのか、人より先に突きとめよう!」というキャッチ・コピー、そしてプロフィールが掲載されています(これが重要なヒントになります)。まるでミステリー小説の結末を探るような気持ちで、会場に足を運んだファンも多かったのではないでしょうか。スタッフの中には、この大胆なコンセプトが果たして受け入れられるのかと心配する向きもあったようですが、それは杞憂でした。チケットは完売し、フライヤー等を見ていち早く謎を解いていた熱心なジャズ・ファンの間では「あのステイシー・ケントが遂に長野に来る!」という期待が日に日に高まっていたとききます。

アクトスペースは天井が高く、音の響きが抜群です。ウェルカムドリンクが観客全員にふるまわれた後、いよいよミステリーの主であるステイシー・ケントのバンドが登場します。もちろんサックスとフルートは夫君のジム・トムリンソン。ピアノとフェンダー・ローズを操るグレアム・ハーヴィーもベースのジェレミー・ブラウンもドラムスのジョシュ・モリソンも、とにかく誰もが"歌伴の達人"です。「こんなにリズミカルでメロディアスなサポートを受けて歌うのは、天にも昇る気持ちなのではないだろうか」と思いながら、ぼくはステイシーのパフォーマンスに酔いしれました。

幅広いレパートリーを持つステイシーだけに、この日もスウィング系のナンバー、シャンソン、ボサノヴァ、ワルツ、バラードなど多種多彩なタイプの曲を届けてくれました。アントニオ・カルロス・ジョビン作「3月の雨(Águas de Março)」ではジムとの仲睦まじいヴォーカル・デュオも聴かせてくれましたし、ミュージカル「南太平洋(South Pacific)」からの人気曲「Happy Talk」における歌唱は、彼女のあだ名"ジャズ・ソングバード"そのものの、鳥がさえずるかのように滑らかで美しいものでした。世界中で最も親しまれている20世紀の楽曲のひとつであろう「Stardust」はヴァース(導入部)から丁寧に表現、"私の一番好きな歌詞です"という前置きに続く「I've Grown Accustomed to His Face」(ミュージカル「マイ・フェア・レディ」より)では、愛する人のことで頭がいっぱいになってしまった気持ちを、じっくりと歌いこみます。1コーラス目をヴォーカルとピアノだけで表現し、2コーラス目からリズムが入り、そのあと転調してジムの間奏、さらに元のキーに戻ってステイシーが締めくくるというアレンジも、さりげないながらも実に効果的なものでした。また、ジムが彼女のために作曲し、夫妻の親友である人気作家カズオ・イシグロが作詞した「The Changing Lights」が聴けたのも個人的には大きな収穫でした。親しみやすく、ちょっと切ないメロディ・ラインは、この夜、彼女が歌った数々の歴史的スタンダード・ソングに勝るとも劣らないと思います。

盛大な拍手が鳴りやみ、場内が再び明るくなったあと、「良かった」「いいねえ」「うまいなあ」といったオーディエンスの声が、会場のいろんなところから聞こえてきました。「ミステリー・ジャズナイト」の継続を希望するとともに、日曜日からのブルーノート東京公演がさらに楽しみになってくる公演でした。
(原田 2017 2.10)


写真提供:(一財)長野市文化芸術振興財団

●STACEY KENT
2017 2.12 sun., 2.13 mon., 2.14 tue. ブルーノート東京
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