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CHRIS BOTTI

artist CHRIS BOTTI , SY SMITH

REPORT

原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO


トランペット界の永遠の貴公子、クリス・ボッティ。スティング、ポール・サイモン、アレサ・フランクリン、アンドレア・ボチェッリなど数多くのスターと共演し、自身のソロ・アルバムもリリースごとに全米ジャズ・チャートの首位を獲得。2013年リリースの『Impressions』はグラミー賞に輝きました。楽器奏者としてはサックスのケニー・Gと並ぶポピュラリティを持っているといっても過言ではないでしょう。

そのスター・トランぺッターが、8年ぶりにブルーノート東京のステージに立ちました。ハイノートを織り交ぜての熱い吹奏にはスタジオ録音のCDとはまた異なった味があり、共演ミュージシャンも凄腕揃い。360度どこから球が飛んで来てもヒットやホームランにつなげてしまう音楽家ばかり、という印象を受けました。ゴリゴリのアコースティック・ジャズ、クラシカル・クロスオーヴァー、癒しの要素満載のイージー・リスニング、エスニック風味のハード・ロック、ソウル・ミュージック、ブーガルーを、一夜のプログラムですべて聴けるとは! こんな柔軟で多彩なバンドを、ぼくは彼らのほかに知りません。

オペラティックに「Nessun Dorma」を熱唱したラファエル・モラス、主にソウル系の曲を歌うサイ・スミスという男女シンガー2人も良いし、アコースティックとエレクトリックを持ち替えて哀愁のフレーズを届けたギター奏者のベン・バトラーも大変な名手です。ベン・スティヴァースがキーボードのハモンド・オルガンの音色を使って聴かせたソロもファンキーでした。ヴァイオリンのルシア・ミカレッリはバラードではエレガントに、レッド・ツェッペリンのカヴァー「Kashmir」では野性的に弦をかき鳴らします。そのギャップにも惹かれました。しかしぼくが最も楽しみにしていたのは、ジャズ界の精鋭からなるリズム・セクションです。ピアノのテイラー・アイグスティは先日、ケンドリック・スコットのバンド"オラクル"でコットンクラブに登場したばかり。今のジャズ表現には欠かせない気鋭ですが、10代半ばで故ビリー・テイラー(チャーリー・パーカーらと共演した伝説的ピアニスト)に認められて売り出していた時は"少年版オスカー・ピーターソン"といいたくなるような超伝統派でした。ボッティのバンドでは、"スタンダード・ナンバーを弾くアイグスティ"をたっぷり味わえます。しかもそのプレイはもう、誰それの影響という域から飛び出し、すっかり彼ならではのものです。ベースのリッチー・グッズは'90年代に頭角を現した一人で、ぼくは故マルグリュー・ミラーのバンドで最初に聴きました。マルグリューはほかにもデリック・ホッジ、カリーム・リギンズらを世に広く紹介しており、2010年代ジャズの父親的存在の一人でもあるのですが、彼自身はアコースティックなモダン・ジャズに徹していました。この日のリッチーはアコースティックもエレクトリックでも抜群に冴えていて、音は美しく図太く、曲によってはジャンプしながら弾いたり、客席の手前まで来て煽ったり、笑顔を絶やさずプレイしていました。ドラムスのリー・ピアソンについては、最晩年のハンク・ジョーンズが好んで起用していたことを思い出します。確かタキシードを着て、非常に端正なサポートをしていた記憶があるのですが、ボッティのバンドでの彼は、とにかくはじけています。もちろんテクニックとグルーヴは最高峰、しかも"見せるアクション"まで織り込むのです。セッティングも独特で、左右に低音を出すフロア・タムをひとつずつ置いています。通常、ドラマーのタム配置は左が高音、右が低音です。しかしピアソンは低→高→低と太鼓を並べているわけです。この独特の並びが、ドラム・ソロでいかんなく発揮されました。そしてボッティは「The Very Thought of You」を客席で演奏。このパートは撮影OKとのことで、熱演する彼に、いろんなところから携帯が掲げられました。

見ても聴いても心から満足できるショウでした。そしてぼくには、クリスがどうして高い人気を維持しているのか、その理由が改めてわかりました。ひとりで聴くのも楽しいでしょうし、みんなで連れ立って見に行くのも楽しいと思います。公演は7日までオフ日なしで続きます!
(原田 2017 2.4)


Photo by Yuka Yamaji

SET LIST

2017 2.3 FRI.
1st
1. GABRIEL'S OBOE ~ CONCERTO
2. WHEN I FALL IN LOVE
3. EMMANUEL
4. YOU DON'T KNOW WHAT LOVE IS
5. HALLELUJAH
6. TANGO SUITE
7. FOR ALL WE KNOW
8. MY FUNNY VALENTINE
9. THE VERY THOUGHT OF YOU
10. THE LOOK OF LOVE
11. KASHMIR
12. TIME TO SAY GOODBYE
13. NESSUN DORMA
14. REGROOVABLE
15. LET'S STAY TOGETHER
 
2nd
1. GABRIEL'S OBOE ~ CONCERTO
2. WHEN I FALL IN LOVE
3. EMMANUEL
4. YOU DON'T KNOW WHAT LOVE IS
5. HALLELUJAH
6. FOR ALL WE KNOW
7. TANGO SUITE
8. THE VERY THOUGHT OF YOU
9. THE LOOK OF LOVE
10. KASHMIR
11. TIME TO SAY GOODBYE
12. NESSUN DORMA
13. REGROOVABLE
14. LET'S STAY TOGETHER
EC. NEARNESS OF YOU

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