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DONNY McCASLIN GROUP with MARK GUILIANA, TIM LEFEBVRE, JASON LINDNER

artist DONNY McCASLIN , MARK GUILIANA

REPORT

原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO


喉から手が出るほどライヴで聴きたかったバンドが、ついに日本にやってきました。ダニー・マッキャスリン、ジェイソン・リンドナー、ティム・ルフェーブル、マーク・ジュリアナの4人組です。もともとぼくはサックス・カルテットが大好きなのですが、彼らがもたらす充実感・高揚感、そして時間の流れを忘れさせるほど演奏に引き込んでいく強さは、ぼくの長い音楽リスナー歴を振り返ってもジョン・コルトレーン・カルテット(ライヴには間に合いませんでしたが)、2000年から今日まで続くウェイン・ショーター・カルテット、リーダーの他界で伝説になってしまったデヴィッド・S・ウェア・カルテットと並ぶほどの"音楽的魔力"で迫ります。

マリア・シュナイダー・オーケストラでの来日公演も記憶に新しいマッキャスリンですが、自身がリーダーとなっての来日はこれが初めてです。ぼくが彼のライヴを初めて聴いたのは今から15年ほど前、ナクソスやアラベスクといったレーベルからCDを出したばかりの頃でした。当時は4ビートの、いわゆるモダン・ジャズを演奏していましたが、長身をゆらしてサックスから鋭いトーンを放っていた姿は今と変わるところがありません。その後、トランペット奏者デイヴ・ダグラスのバンドにクリス・ポッターに替わって参加し、引き続きモダン・ジャズをガッチリ聴かせていくわけですが、ダグラスのレーベル"グリーンリーフ"から出ていたリーダー作は、それとは趣向の違うものでした。より冒険的で奇想天外。とびきりポップな文体で書かれた、まったく展開の先が読めない小説を読んでいるような気分を与えてくれました。メタル・マウスピースによるちょっと押しつぶされたような音色(個人的にはガトー・バルビエリを思い出します)、歌い叫びうめくような色とりどりのフレーズ、突如"ガー"とか"ピー"とかのフリーク・トーンを混ぜながらのアドリブ展開は「なんだこれ、むちゃくちゃ面白いぞ」のひとことに尽きました。『★』などデヴィッド・ボウイ関連のプロジェクトへの抜擢(ボウイはジャズ好きでもありました)、それにともなう知名度や人気の上昇は長年の彼の音楽にかける情熱と精進が認められた証といっていいでしょう。

演目は「Shake Loose」、「Beyond Now」、「Glory」、ボウイとブライアン・イーノが組んだ「Warszawa」のカヴァーなど、モテマ・ミュージック移籍作にして最新傑作『Beyond Now』に入っている曲に、ボウイの「Lazarus」(ティムのピック弾きベースが圧巻)なども織り交ぜた形。マッキャスリンはテナー、ティムはエレクトリック・ベースに専念します。そしてジェイソンは3種のキーボードを自在に操り、「Glory」では雄大な無伴奏ソロも聴かせてくれました。彼はバリー・ハリスや故クリス・アンダーソン(ともに1950年代にデビューした伝説的ピアニスト)の教え子で、伝統的なジャズに関する造詣も深いのですが、「お師匠さん通り」にプレイしたところで、面白くなりっこないのがジャズという音楽の面白さです。1月30日にYasei Collectiveとの共演で「ブルーノート東京」に登場したばかりのマークと、マッキャスリンが向かい合っての壮絶なバトルも、このライヴの目玉のひとつでした。マークは2種類のシンバルの上に"鳴り物"を置き、多彩な響きを生み出します。ひとつはバスドラの上に設置されている小さなシンバル(まるでジーン・クルーパのようです)、もうひとつは向かっていちばん右側にあるシンバル。鳴り物を置くことでシンバル音の余韻をミュートし、たった一打でシンバルと鳴り物の響きの両方を出すことができる・・・音にすると"バシュッ""ガジャッ"という感じでしょうか。

この4人が集った最新作『Beyond Now』をぼくは、2016年度のベスト・ジャズ・アルバムのひとつだと確信しています。去る1月7日に四谷のジャズ喫茶「いーぐる」で開催した講演会では"ジャズ100年、何がどう変わったのか? あるいは変わっていないのか?"ということで1916年に録音されたザ・ヴァーサタイル・フォーの「Down Home Rag」と並べてタイトル曲を紹介しました。ジャズの豊かなcascadeは、確実にマッキャスリン一党に流れ及んでいます。ジャズ・ファンだけではなく、音楽ファンにこの公演をぜひ見て、感じてほしい! 公演は本日までです。
(原田 2017 2.2)

Photo by Takuo Sato

SET LIST

2017 2.1 WED.
1st
1. SHAKE LOOSE
2. BEYOND NOW
3. LAZARUS
4. GLORY
5. WARSZAWA
6. FAST FUTURE
 
2nd
1. SHAKE LOOSE
2. BRIGHT ABYSS
3. NO EYES
4. FACEPLANT
5. HENRY
6. STADIUM JAZZ
EC. MEMPHIS REDUX

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