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HERBIE HANCOCK QUARTET featuring James Genus,Trevor Lawrence Jr. & Terrace Martin

artist HERBIE HANCOCK , TERRACE MARTIN

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原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO


ジャズ界で最も成功を収めている現役ミュージシャンのひとりで、ユネスコ親善大使でもあるハービー・ハンコックが、「ブルーノート東京」に戻ってきました。クラブへの登場は世界的にも貴重です。コンサート・ホールや大型フェスでは不可能な、手の届きそうな近距離で、あのワン&オンリーの鍵盤さばきを楽しめるのです。

前回はジェームス・ジナス(エレクトリック・ベース)、ヴィニー・カリウタ(ドラムス)、リオーネル・ルエケ(ギター)とのステージでしたが、今回はジナス、トレヴァー・ローレンスJr.(ドラムス)、テラス・マーティン(アルト・サックス、キーボード、ヴォコーダー)を引き連れて登場しました。トレヴァーの父親はサックス奏者のトレヴァー・ローレンスSr.。マーヴィン・ゲイの『トラブル・マン』でフィーチャーされていた、あの伝説の名手です。ジュニアは13歳の時にディジー・ガレスピーと共演、マライア・キャリー等のバックを経て、ハービーのバンドに加わりました。テラス・マーティンは、昨年出た最大の話題作のひとつであるケンドリック・ラマ―の『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』のプロデューサーのひとりでもあります。サックスも吹きますが、ぼくは彼がヴォコーダーでつけるバック・コーラスのうまさに感服しました。

プログラムは、「アクチュアル・プルーフ」、「ウォーターメロン・マン」、「カメレオン」、「カンタロープ・アイランド」等のヒット・チューンを中心に構成されていました。しかし同じ曲をプレイしても、リオネルやヴィニーがいた頃とはアレンジが違います。リズムの感触が違います。2個のスネア・ドラムと1個のソプラノ・スネアを高らかに響かせながら、蛇がのたうつような図太いベース・ラインと絡み合うトレヴァー。リーダーのキーボードに、とんでもなく洒落たトーンで合いの手を入れるテラス。彼らの手にかかると、'60年代から'70年代前半に書かれた古典が俄然、生き生きと響きます。

そして中盤では、ニュー・アルバムに収録予定のナンバーも聴かせてくれました。最近のハービーは新作を出さなくなったので(なぜ寡作になったのかは、自伝「ハービー・ハンコック自伝 新しいジャズの可能性を追う旅」に説明されています)、とにかく新しいアルバムを構想しているという話に驚き、しかもその楽曲が猛烈にかっこいいということに心が躍りました。あえていうならマイルス・デイヴィスの「カリプソ・フレリモ」風のリズム(トップ・シンバルをイーヴンに打ち続けるところ)に、これまでのハービーのアルバムでは聴かれなかったようなメロディが乗る、という感じでしょうか。と書いていても、とてもじゃないですが説明しきれるものではなく、これはとにかく現場で体感するにこしたことはないのです。テラスのヴォコーダー(エレクトリック・ヴォーカルと呼びたいところです)も妖しく輝き、早とちりに過ぎるかもしれませんが、ぼくは「今度のハービーのアルバムは、ひょっとして彼のここ30年来の最高傑作になるのではないか」と、いまから憶測しています。

公演は本日も行なわれます。単なる偶然かもしれませんが、今回のハービー・バンドの楽器編成は、ロバート・グラスパー・エクスペリメントのそれと同一です。76歳の巨匠と、息子や孫のように年の離れた3人が技の応酬を繰り広げる約90分間・・・・エクスペリメントのファンも、鳥肌が立つこと間違いなしの内容といえましょう。
(原田 2016 9.1)


Photo by Tsuneo Koga

SET LIST

2016 8.31 WED.
1st
1. ACTUAL PROOF
2. WATERMELON MAN
3. UNTITLED
4. PIANO SOLO
5. CANTALOUPE ISLAND
EC. CHAMELEON

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