原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

世界中のブラジル音楽ファンから「うらやましい」という声がきこえてきそうです。ともにリオ・デ・ジャネイロ出身で'60年代から活動を続ける大ベテラン、しかしなぜか今まで本格的な共演の機会に恵まれなかった天才シンガー・ソングライターふたりが、ついに東京で顔を合わせたのですから。

最初に登場したのはイヴァン・リンスです。前日はブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラと鮮やかな共演ステージを楽しませてくれましたが、この日はギタリストのレオナルド・アムエドとのデュオで進行します。シンプルな編成がイヴァンの美しい声やキーボード・プレイ（左手でベース・ライン、右手でコードをリズミカルに刻みます）を引き立て、レオナルドもソロにバッキングに八面六臂の活躍をします。「1988年に初めて出演して以来、ブルーノート東京が大好きなんだ。去年はリー・リトナーと一緒に来ることができたし、昨日は素晴らしいオーケストラと共演できた。そして今日はジョイスとステージに立てるんだからね、嬉しいよ」といいながら、不朽の名曲「Começar de Novo」（英語タイトル「The Island」）、9月17日に行なわれるブルーノート・ジャズ・フェスティバルに登場予定のジョージ・ベンソンが大ヒット作『Give Me The Night』でカヴァーした「Dinorah,Dinorah」等を聴かせてくれました。これぞ、まさに究極の自作自演、ぼくはまるでイヴァン宅のリヴィング・ルームで弾き語りを聴いているかのような、インティミトでアットホームな気分を味わいました。

"ヴェリ・ヴェリー・スペシャル・ゲスト、ジョイス！"というイヴァンの声に導かれ、今夜のもうひとりの主役、ジョイス・モレーノが登場します。先日終了したリオ・オリンピックについてトークをした後、イヴァンが「今度の東京オリンピックの年にもふたりでステージに立ちたいね」とジョイスに語りかけます。リオ出身のふたりは、同郷の大先輩アントニオ・カルロス・ジョビンの古典「Caminhos Cruzados」他を、丁寧に丁寧に歌い上げました。

満面の笑顔のイヴァンがサムズ・アップ（両手の親指を上にあげる）のポーズでステージを去った後は、ジョイスと彼女のバンドが受け継ぎます。チャールズ・ミンガス、マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーンという3人のジャズ・ジャイアンツに捧げた「Mingus,Miles & Coltrane」に始まり（この曲だけレオナルドも参加）、"リオデジャネイロは空と海の街"という前置きから歌われた「Céu e Mar」、大定番の「Feminina」等を、流れるように披露します。ジョビン作「O Morro Não Tem Vez」の演奏が後半に差し掛かったころ、イヴァンとレオナルドが楽屋から客席に向かいます。セッションはそのまま、ジョビン作「Samba do Avião」へとなだれ込みました。オーラスはやはりジョビンが書き遺した、ボサ・ノヴァの聖歌というべき「Chega de Saudade」。イヴァンが口でトロンボーンの真似をし、それをジョイスがスキャットで受け継ぐという、実にエモーショナルなシーンもありました。共演ステージは29日まで続き、その後31日と9月1日にはジョイスの単独公演が「コットンクラブ」で行なわれます。
(原田 2016 8.28）

Photo by Yuka Yamaji

●JOYCE MORENO
2016 8.31 wed., 9.1 thu.　コットンクラブ