NYブルックリン出身のヒップホップMC、タリブ・クウェリは、ステージ途中で本人も語っていたように今年でキャリア20周年を迎えた。モス・デフ（現ヤシーン・ベイ）とのブラックスター、DJハイ・テックとのリフレクション・エターナル、女性シンガー＝リースとのアイドル・ウォーシップ、そして最近は9thワンダーとの共同名義でも作品を発表。そうしたキャリアを総括／凝縮したのが本公演だったのだが、今回は凄腕揃いのライヴ・バンドを引き連れての日本初となるジャズ・クラブ公演ということで、バンドとの丁々発止のセッションが最大の観どころとなる。

　バンドを従えたライヴは本国では何年も前から行っていて、今年6月にNYの〈ブルーノート・ジャズ・フェスティヴァル〉でロイ・エアーズを迎えて行ったショウも大盛況だったと聞く。今回の来日メンバーは、ジョン・レジェンドやDJスピナらに関わるクリス・ロブ（キーボード）、エステルのバンドにいたカマウ"クラッチ"バーンスタイン（ドラムス）、DJプレミアのバンド公演でも活躍したブレイディ・ワット（ベース）、ジョン・Bなどと仕事をしているジョン・ケイヴ（ギター）の4人。彼らはクリスを中心にコーラス／サイド・ヴォーカルも担当した。

　アイドル・ウォーシップ絡みの"Going Hard"で幕を開けたステージは序盤、ハードエッジな演奏とタリブの高いトーンのラップでたたみかけ、カニエ・ウェスト制作の非公式リリース曲"Lonely People"では、サンプリング・ネタでもあったビートルズ"Eleanor Rigby"を織り込んで歌も披露。こうしたロック的な展開もありながら、ジャスト・ブレイズ制作の"Never Been In Love"でメロウな演奏に歌ゴコロ溢れるラップを乗せると、瞬時にジャズ・クラブの雰囲気に溶け込んだ。ジャジーだが緊張感を漂わせ、時に暴れまくるバンドの演奏は2000年前後のザ・ルーツを思わせたが、ザ・ルーツ一派が主導するOkayplayer~ソウルクエリアンズといったミュージック・コレクティヴに属していたタリブだけに、こうしたバッキングとは当然ながら相性がいい。と思わせたところで、J.ディラへのトリビュートとしてディラがいたスラム・ヴィレッジの"The Look Of Love"を哀感とメロウネスを湛えながら披露した場面は前半のハイライトだったと思う。さらに、〈Back in the day〉なコーナーでは、ブラックスター時代の"Definition"と"K.O.S.(Determination)"を連発。コンシャスなリリックを淀みなくラップして"あの頃"へと連れ戻す姿に胸が熱くなったファンもいただろう。

　力強いドラム・ソロから始まった近年のナンバー"Wait For You"では、バンド・メンバーによるソロ・プレイも披露。日本語で煽り始めたクリスが「ホンモノのヒップホップは好きですか？」と言った後、ア・トライブ・コールド・クエスト"Scenario"などの90sイーストコースト・ヒップホップ・クラシックの一節を繋いでいったあたりには、改めてNYヒップホップ勢のプライドを見る思いだった。本編終盤はハイ・テックとの共同名義曲が続き、"The Blast"ではジャジーな鍵盤ソロもフィーチャー。アンコールでは、原曲でメアリー・J.ブライジが歌っていたフックをメンバーが演じた"I Try"、ニーナ・シモン"Sinnerman"を引用した"Get By"と、人気のナンバーで客席を盛り上げた。

　2日限りとなる貴重なライヴ・バンドによるステージをお見逃しなく。
(2016 7.26）

text : 林 剛
1970年生まれ。R&B／ソウルをメインとする音楽ジャーナリスト。各所で執筆。昨年～今年出したディスクガイド（ディアンジェロを軸にした『新R&B入門』、マイケル・ジャクソンを軸にした『新R&B教室』）も好評発売中。

Photo by Tsuneo Koga