原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

ピアニスト、アレンジャー、プロデューサーとして不動の地位を築くボブ・ジェームスが、お気に入りのミュージシャンとのカルテットで来日中です。ここ四半世紀ほどフュージョン〜スムース・ジャズの超人気バンド"フォープレイ"のフロントマンとしても活動中のボブですが、自身のグループではよりワイルドでたくましいプレイを楽しむことができます。フォープレイとはまた趣の異なる彼のピアノ世界を満喫できるのが、今回の公演です。

共演者はアレサ・フランクリンやアール・クルーのサポートもこなすペリー・ヒューズ（ギター）、"イラケレ"のベース奏者カルロス・デル・プエルトを父に持つカルリートス・デル・プエルト（ベース）、そして新メンバーにエルナン・ロペス・ヌッサのバンドやNGラ・バンダで腕を磨いたジミー・ブランリー（ドラムス）。カルリートスとジミーはキューバ生まれです（現在は米国ロサンゼルスに住んでいます）。

ホレス・シルヴァーが書いた「The Jody Grind」はボブの近年の十八番です。ぼくも異なるドラマーの入ったパフォーマンスを聴いたことがありますが、煽りたてるようなジミーのリズムで聴くこの曲は絶品です。ボブのピアノ・ソロもコーラス数を重ねるごとに熱を増し、ジミーが足カウベルも使いながら超絶的なポリリズムを生み出すと、ボブも打楽器的なタッチでこれに応じます。この曲で存分にアコースティック・ピアノを鳴らした後、'77年の大ヒット・アルバム『Heads』に入っていた「Night Crawler」へ。ボブはピアノとフェンダー・ローズを兼用し、しっとりとソロを綴ります。ペリーのギターもまろやかでタメが利いていて、ボブの「彼のプレイは、今は亡きエリック・ゲイルを思わせる」という言葉にも納得できます。

ジャズの古典的ナンバー「Caravan」をトリオで届けてからは、いよいよ新曲の世界初公開です。大の親日家であり、このカルテットによる公演を心から楽しみにしていたボブは、この日のために書き下ろしを完成させたのです。最初にプレイされたのは、「Il Boccalonne」。東京にある、ボブお気に入りのイタリアン・レストランの名前だそうです。ちょっとクラシカルな響きを持つ曲で、ベースのデュオで演奏されました。そしてもうひとつは「Mojito Ride」。今回の公演に合わせて用意されたスペシャル・カクテルの名前でもあります。こちらは打ち込みのリズムも用いた曲調で、シンフォニー的なフュージョン・サウンドといった感じでしょうか。

その後はフュージョン黄金期を象徴する1曲「Westchester Lady」を演奏。初出は1976年のアルバム『Bob James Three』、フォープレイのライヴでも「毎回必ず絶対に」といっていいほど取り上げられています。今回も「待ってました」の登場なのですが、アレンジは異なり、ジミーのドラムスがたっぷりフィーチャーされました。ぼくは"こういうWestchester Ladyも面白いな"と印象を新たにしましたが、16日までの公演期間中、どんなレパートリーが飛び出すかは、そのときのボブの気持ち次第。ひとつ確実にいえるのは、「新曲でも旧作のリメイクでもカヴァーでも、カルテットは全力を尽くしてオーディエンスを楽しませてくれるであろう」ということだけです。ボブが自信と誇りを持ってお送りするカルテットのパフォーマンスを、ぜひライヴでお楽しみください！
(原田 2016 7.14）

Photo by Yuka Yamaji

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