原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

ニューオリンズ直送のサウンドが、ブルーノート東京に轟きます。マルディグラの時期にあわせて行なわれた気鋭グループ"チャ・ワ"の快演も記憶に新しいところですが、今回は結成33年を迎えるリバース・ブラス・バンドの登場です。グル―プ単独のレコーディングやライヴのほかにも、ロビー・ロバートソン（ザ・バンド）、アニ・ディフランコ、エリカ・バドゥらと共演するなど、多方面で活躍する名門です。

ぼくが彼らの演奏を初めて聴いたのは1992年の『Take It To The Street』というアルバムでした。すでに日本で評判を呼んでいたダーティ・ダズン・ブラス・バンド（'85年にキングレコードから初めて国内盤が出ました）からはずいぶん「モダン・ジャズの影響が濃いな」という印象を受けたのですが、リバースのサウンドはより躍動的でファンキーで、その音を聴きながら「彼らはきっとヒップホップも大好きなんだろうな」と想像したものです。当時の花形トランぺッター、カーミット・ラフィンズは独立して久しいですが、創立者のひとりであるキース・フレイジャーは今回の来日にも参加。右手でマレットを持って大太鼓を叩き、左手でドライバーを持って小型のシンバルを横から打ちます（シンバルの端は、打ち続けられた跡なのでしょうか、微妙にゆがんでいます）。彼とスネア・ドラム担当のジェナード・アンドリュース、さらにスーザフォンのデスモンド・プロヴォストが怒涛のようなリズムを創り出します。

ステージはグラミー賞受賞アルバム『Rebirth of New Orleans』からの「Exactly Like You」から始まりました。ブラス・バンドがグラミー・ウィナーになったのは彼らが史上初めてなのだそうです。1930年に作曲されたミュージカルの曲が、ファンキーに生まれ変わります。続く「Jambalaya」は、日本ではハンク・ウィリアムスやカーペンターズの歌でも知られていることと思います。トランペット奏者シャドリック・オノーレーは楽器を空高く向けて一心不乱にブロウし、歌い、汗だくで観客を煽ります。今年30歳、名門リバースの"若さ"を象徴するひとりといっていいでしょう。「次はマイケル・ジャクソンの曲だ！」という前置きの後には「Don't Stop 'Til You Get Enough」（今夜はドント・ストップ）と「Billie Jean」が連続して登場。後者では、あの印象的なベース・ラインを、デスモンドがスーザフォンで鮮やかに吹きこなし、店内は重量級の低音に包まれました。みんながよく知っている曲が、ニューオリンズ風の味付けで次々とプレイされました。ぼくをリバース・ファンにした「Take It To The Street」を生で聴けたのも、個人的にはとてもうれしかったです。

ところで、"トランペット・ブラック"ことトラヴィス・ヒルの名をご存知でしょうか。ニュー・バース・ブラス・バンド他で活躍した奏者です。彼は昨年5月4日、滞在中の東京で、28歳の若さで亡くなりました。ここからステージは、いわゆるフューネラル・パレードの時間に突入します。スロー・テンポによる「Just a Closer Walk with Thee」で彼を偲び、一転して快活なセカンド・ラインへと突入します。メンバーは客席を練り歩き、さらに場内の興奮を高めます。それにしても、ダイジェストとはいえ"ニューオリンズのジャズ葬"を、日本にいながらにして見ることができるとは！

公演は明日まで続きます。物販では日本の店頭ではなかなか入手できないCDも取り扱っており、食事メニューにはニューオリンズ名物のガンボが特別に加わっています。ニューオリンズの熱を、全身で感じようではありませんか。
(原田 2016 5.31）

Photo by Tsuneo Koga