ネオソウルの最新形、ムーンチャイルドのハイブリットなアンサンブル | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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ネオソウルの最新形、ムーンチャイルドのハイブリットなアンサンブル

ネオソウルの最新形、ムーンチャイルドのハイブリットなアンサンブル

ライヴ、テクノロジー......新世代の音楽がここに

ロサンゼルスから登場した3人組、ムーンチャイルドは、澄み切ったヴォーカルに、R&Bやヒップホップの影響も受けたハイブリッドで芯のあるサウンド、そしてメロウでレイドバックした空気を届ける。ミュージシャンとしてのプレイが際立つライヴは、とりわけ評価が高く必見だ。

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 ムーンチャイルドの音楽はよくネオソウルと形容される。心地良いグルーヴと歌、それに生演奏をベースにしたオーガニックなサウンドは、確かにエリカ・バドゥやディアンジェロたちが生み出した音楽をアップデートするものに感じられる。しかし、それはかつてのネオソウルの焼き直しではない。特にライヴでは、そのことがはっきりと見て取れる。

 ムーンチャイルドのステージを初めて見たときの驚きは忘れられない。アンバー・ナヴランのヴァーカルとサックスを中央に、アンドリス・マットソンのキーボードとトランベット、マックス・ブリックのキーボードとサックスが左右に位置する。それにサポート・ドラマーが加わったライヴ・セットは、とても4人だけで演奏しているとは思えないようなハーモニーやアンサンブルを生み出すのだ。

 それぞれが複数の楽器、役割を悠々とこなしてみせる。キーボードを弾いているかと思ったら、片手はシンセベースを同時に弾きこなしていたり、しっかりヴォーカルを聴かせた次には、3人揃ってホーンを見事に響かせる。さらにはドラムを叩きながら、ヴォーカルのサンプルも操作して、バッキング・ヴォーカルを作り出してもいた。最小限の構成であらゆるサウンドを繰り出してみせる。

 ムーンチャイルドは、名門と言われる南カリフォルニア大学ソーントン音楽学校(USC)で結成された。そこでジャズを専攻した3人は、ミュージシャンとしての腕も確かなのだ。さらにユニークなのは、USCはバークリーなどと同じく、ソウルやR&Bを教える先進的なプログラムもある学校で、3人ともそこでネオソウルのアンサンブルを学んでいる。

 もちろん、学校で学ぶことがすべてではない。確かな演奏技術はあっても、聴く人を魅了するセンスまでは身につかない。ムーンチャイルドにはその特別なセンスがある。3人はミュージシャンとしての幅を広げると共に、プログラミングやプロデュースもこなす。昨年、アンバー・ナヴランがリリースした初のソロEP『Speak Up』も、作曲からプログラミング、録音やミックスまですべて彼女一人が手がけた。ムーンチャイルドの音楽の根幹にあるメロウでレイドバックした空気を、よりパーソナルなサウンドと歌で伝える魅力的な作品だった。

 以前、彼女にインタビューした際、スタジオに入らずとも作品を作り出せるテクノロジー環境が現在のミュージシャンを活性化させていることを指摘していたのが印象に残っている。その意味で、現在のテクノロジーの恩恵を受けた新世代のミュージシャンが成し遂げた最良の音楽の一つがムーンチャイルドと言っても過言ではないだろう。ただ、ムーンチャイルドの真骨頂はやはりライヴにこそある。スリリングで、尚かつ心地良い、彼らのパフォーマンスは、きっと多くの人を魅了するはずだ。

 

ムーンチャイルド
『ボイジャー』
(Tru Thoughts / Beat Records)

原 雅明(はら・まさあき)
音楽評論家。レーベルringsのプロデューサーやネットラジオdublab.jpのディレクターも務め、都市や街と音楽との新たなマッチングにも関心を寄せる。新著『Jazz Thing ジャズという何か─ジャズが追い求めたサウンドをめぐって 』。

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