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[インタビュー|OFFSTAGE]シャイ・マエストロ

[インタビュー|OFFSTAGE]シャイ・マエストロ

政局不安定なイスラエルだからやれる音楽がある。

 イスラエルには伝統音楽がないという。だからこそ、 シャイ・マエストロはさまざまな音楽を吸収し消化して、 自分自身のジャズの世界を切り開いていく。

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 編成はジャズのピアノトリオ。しかし会場に流れる空気はときおり厳かで、クラシックのコンサートに近いものが感じられた。11月にブルーノート東京とコットン・クラブで3日間6公演行われたイスラエル出身のピアニスト、シャイ・マエストロはデリケートな鍵盤のタッチがとても魅力的だった。

「僕にとって、演奏とは自分の心の声を聞く作業。空から降ってくる何かを体と心が反応して、船に乗せて川を運んでいく。それが僕の音楽です。だから、感度を上げるために、ヨガをやっています」

 子どものころにクラシックピアノを習っていたシャイがジャズに目覚めたきっかけは、オスカー・ピーターソンのアルバムとの出合いだった。

「『ガーシュウイン・ソングブック』の即興に衝撃を受けた。メロディというプラットホームをまるでマッサージを施すかのようにじわじわと変えていく演奏に魅力を感じたんだ。オスカーにはハードタッチのイメージが強いけれど、このアルバムのバラード曲ではとてもソフトなタッチで演奏している」

 そのとき、実は自分も幼いころにジャズをやっていたことに気づいたという。

「4、5歳のとき、母親が食事のしたくをしている傍らでよく風や雷の音をピアノで弾いて、頭の中で映像を思い描いていた。そのときの僕はとても自由だった。あれはまさしくジャズの即興。僕は幼いころにそうとは知らずにジャズをやり、クラシックの教育で音楽の理論を学び、またジャズに戻ったんだよ」

 シャイも共演しているベーシストのアビシャイ・コーエンをはじめ、今、ジャズシーンではイスラエル出身のミュージシャンが活躍している。

「日本人も知っていると思うけれど、イスラエルの政局は混乱している。苦しいよ。そういう国で音楽をすることにはハンディキャップはあるし、コンプレックスもある。ただ、だからこそ、表現したいことはたくさんある。今ある環境の中で、自分なりにできることをやるしかないんだ」

 文化的な側面では、シャイいわく、イスラエルには伝統音楽はないのだそうだ。

「ブラジルにはサンバがあり、スペインにはフラメンコがあり、キューバにはサルサがあるよね。ロシア人はたぶん、クラシックを心のよりどころにしていると思う。ところが、イスラエルには国民が共有する伝統音楽はない。移民の国だからね。たとえていうと、イスラエルは中東におけるニューヨーク。ロシア人、チュニジア人、モロッコ人、エジプト人 ...... などが共存している。音楽的にはホームレスのような感覚を持っている。でも、利点もある。イスラエル人は伝統音楽を持たないからこそ、どんな音楽でもスポンジのように吸収することができるんだ。僕は積極的にセッションをやる。ほかの演奏家の個性をどんどん吸収できるからね。それを考えると、イスラエル人にはジャズが合っている。さまざまな音楽をどんどん取り入れるのがジャズだからだよ」

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Photo by Tsuneo Koga

SHAI MAESTRO TRIO
2018 11.12 - 11.13
SHAI MAESTRO (シャイ・マエストロ)
1987年、イスラエル生まれ。テルマ・イェリン国立芸術高等学校でジャズ とクラシックを学び、バークリー音楽 大学へ。N.Y. でイスラエル・ジャズ・ シーンを牽引するアヴィシャイ・コー エンのグループに参加し頭角を現す。

photography = Hiroyuki Matsukage
interview & text = Kazunori Kodate
interpretation = Kazumi Someya

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