マリア・シュナイダーの雄大な音楽世界 | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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マリア・シュナイダーの雄大な音楽世界

マリア・シュナイダーの雄大な音楽世界

オーケストラとともに進化し続ける
マリアの雄大な音楽世界

現在進行形の「新しいビッグバンド音楽界」において伝説的な存在となった女流作曲家、マリア・シュナイダーと彼女のオーケストラが、3年半ぶりの来日を果たす。そのマリアが公演へ向け特別に設けてくれたインタビューを通して、彼女の作曲家・バンドリーダーとしての魅力を探る。

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photography = Yuka Yamaji[live main photo], Tak Tokiwa[NY photos]
interview & text = Miho Hazama cooperation = Jazz Life



 実に3年半ぶりの来日。その間に彼女は、2つの大きなプロジェクトを発表した。ひとつは自身のオーケストラと7枚目のアルバムとなる"The Thompson Fields"。もうひとつは、かのデヴィッド・ボウイが亡くなる約1年前に発表したシングル"Sue"だ。ボウイと作編曲を共にしたのである。 ずっとCDで聴いてきた楽曲をようやく生で聴ける、と楽しみにしている方も多いだろう。どんなセットリストを予定しているのか訊いてみたところ、彼女は嬉しそうに答えてくれた。「ひと晩のあいだは全て違う曲を演奏するので、1stセットと2ndセット両方を観てくださるお客さんにも飽きずに楽しんでいただけると思うわ。そして、日によってそのセットリストを少しずつ変えたりソリストを変更したりするので、同じ曲でも全く違う曲に聴こえたりすると思うの。複数回来ていただいても、ジャズならではの楽しみ方ができるわよ!」そして、未録音の最新作も演奏予定という嬉しい情報も付け加えてくれた。

 マリアいわく、ブルーノート東京での初公演(2012年)は、今でもオーケストラメンバーのあいだで語り草となっているそうだ。なんでも、彼女が次に演奏する曲目をアナウンスするだけで「おおぉ!」と大歓声が上がる場所は、後にも先にもブルーノート東京だけらしい(笑)。「夢中になって聴いてくれるオーディエンスの熱気はメンバー達に本当によく伝わっていると、指揮をしていて感じるのよ」とマリアは言う。彼女にとって、オーケストラメンバーは仕事仲間であるだけでなく、移動や食事も共にする心友たち。20年を超えたバンドの歴史も、何回かメンバーの変更を乗り越えてきた。自身のオーケストラをプロデュースする秘訣として、「自分の耳で確かめることも大事だけれど、"この人を仲間に入れたら演奏しやすい"というメンバーからの推薦も大切にしている」と答えてくれた。何故なら、このメンバー達こそが彼女の音楽を知り尽くし昇華させる力を持つキーパーソン達だからだ。マリアはステージ上で音は出さない。音楽にパワーを持たせるには、バンドリーダーとして、作品に真剣に向き合ってくれる音楽家達と寄り添っていくことが必要不可欠である。こうして彼女の音楽自身も、オーケストラと共に進化してきた。

「実はね、できれば今回日本で毎セット演奏したいくらいに思っている新曲があるのよ!」マリアがキラキラした目で打ち明けてきた。一度終止線を引いた作品でも、本番を重ねるうちに新しい発見があったり納得のいかない部分が出てきて試行錯誤を繰り返す作品が時々ある、というのだ。事実、"The Thompson Fields"に収録されている"Arbiters of Evolution"は、前回の日本公演でまさに試行錯誤中だったようで、毎晩演奏することによって何が足りなかったのか、どう変えれば自分のビジョンがメンバーに伝わるか見えたのだそうだ。今回の新曲も、メンバーに咀嚼してもらってどう進化するのか、期待したい。

 実はこの曲、ボウイとの経験も大きく影響しているという。「あの頃はちょうど"The Thompson Fields"をミックスしていた時期だった。出来上がった"Sue"を聴いたあとに自分のアルバム作業へ戻ったとき、なんだか拍子抜けしちゃったのよ。"Sue"がダークでミステリアスなのに比べて、自分のアルバムはなんてのどかなのかしらって。焦ってデヴィッドにそう言ったら、彼がこう返信してきたの。『ということは、僕との経験が君を真っ逆さまの新しいどこかへ誘ったんだね。それなら僕の仕事は大成功、完了だ』― "The Thompson Fields"をリリースした後にしばらく作曲活動をお休みしたけれど、そこから戻った時に「作りたい!」と思う音楽の要素がここ数年では考えられないくらいダークで刺々しいものに変わっていたわ。デヴィッドの影響は計り知れない。」

 マリアはこの数年、音楽家の権利擁護活動に尽力してきた。オーケストラメンバーや音楽的体験から得たインスピレーションの他にも、この活動が彼女にとって新たな作曲動機へと繋がったという。「ニューヨークに住んでいて感じることは、驚くべきことに若い音楽家たちもどんどんビッグバンドを作って公演したりして、音楽シーンはとても活発だということ。問題はそれをいかにオーディエンスに伝えるか、という方法を無料で提供しようとする勢力よ。今まで、感動、恐怖、悲しみ、感謝、といった感情から曲のインスピレーションを得たことはあったけれど、怒りの感情を音楽で表そうと思ったのは初めてだったかもしれない。」 音楽ジャンルは一切気にしない。近頃よく尋ねられるそうだが、"フェミニスト"でも無い。自身の人生を反映したうえで集められた宝石たちを丁寧に紡ぐのが、作曲家、マリア・シュナイダーのやり方だ。 最後に、同業者としては憚られる質問を投げかけた。「アルバム未収録の曲も演奏すると伺いましたが、もう新しいアルバム制作の計画があるのですか?」(弁明すると、ビッグバンドアルバムを制作するのは容易ではない上に、マリアがどれだけ苦労して"The Thompson Fields"をリリースしたか知っていたので、NOと答えると分かっていたのだ。)

 予想通り苦笑いのマリアが間髪あけずに「NO。ここ数年は絶対ないわね」と言う。しかし、彼女は続けて、「でも発展途上の新曲があるのは刺激的だわ。ブルーノート東京での反応も、次作に影響するかも!」と声を弾ませた。

 ...皆さん、マリア・シュナイダー・オーケストラ新作の運命に関われるチャンスです。え、重いって? そう言わずに、今回も盛り上げてあげてください!!

今年1月にNYのDizzy's Club Coca Colaで行われた挾間さんのライブには、マリアが応援にかけつけた。挾間さんは2012年ブルーノート東京での初公演のさいに開催されたクリニックにも参加していた。
毎年秋にNYのJazz Standardで開催されるマリアのライブは、昨年も5日間満席となった。ライブには世界各地からの熱心なファンに加え、若手コンポーザーやアレンジャーなど音楽のプロたちも多く集まった。
 

Maria Schneider Orchestra
『The Thompson Fields』

(Artist Share)



MARIA SCHNEIDER(マリア・シュナイダー)
米ミネソタ州ウィンドム出身。ギル・エヴァンスやボブ・ブルックマイヤーに学び、'93年から自己のオーケストラを率いて活動、ヨーロッパや南米でも評価される。デヴィッド・ボウイの「Sue(Or In A Season Of Crime)」等、グラミー賞はこれまでジャズ、クラシック、ポップスのジャンルにおいて5回受賞。
挾間美帆(はざま・みほ)
国立音楽大学及びマンハッタン音楽院卒業。作編曲家として幅広く活動し、自身のジャズ室内楽団「m_unit」と2枚のアルバムをリリース。第24回出光賞受賞。2016年、米ダウンビート誌「ジャズの未来を担う25人」に選出される。

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