〜vol.1〜 公演直前インタビュー、ハーブ・アルパート | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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〜vol.1〜 公演直前インタビュー、ハーブ・アルパート

〜vol.1〜 公演直前インタビュー、ハーブ・アルパート

>> [vol.2] 情熱が生み出したティファナ・ブラスのサウンド〜A&Mレコーズ成功の秘密
>> [vol.3] 輝かしいヒット曲の誕生秘話〜来日公演への高まる期待

今もなおオリジナルを求め続ける重鎮
新作リリース目前に48年振りの来日公演

 ジャズ・トランペットの巨匠、ハーブ・アルパートが、ついに日本に帰ってくる! 実に48年振りとなる来日公演が、セルジオ・メンデス&ブラジル'66でリード・ヴォーカルを務め、ハーブともツアーに出演している妻のラニ・ホールと共に実現する。
 絵画や彫刻などのアート活動にも精力的で、御大80才とはとても思えないエネルギー溢れるハーブを、ロサンゼルス郡西部のマリブにある自宅スタジオに訪ね、輝かしいヒット曲の誕生秘話やA&Mレコーズの成功ストーリーなどを振り返りながら、新作や来日公演への思いをたっぷり語っていただいた。

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 通算41作目となるアルバム『Come Fly With Me』が、この9月25日にリリースとなるハーブ・アルパート。新曲と名作のカヴァー曲を織り交ぜた今作には、何を期待できるのだろうか。

 「8才の頃からトランペットを吹いているトランペットプレイヤーの演奏が期待できるよ(笑)。レコーディングする度に、聴いていて楽しいだけじゃなく、"オリジナル"を作りたいと思っている。カヴァー曲をやる場合は、まだ誰も聴いたこともないようなやり方で演奏したい。まるで新しい曲を聴いているようなね」



 今回の来日公演について、ラニやバンドメンバーとは、どんな計画をしているのか教えていただいた。

 「最後に行ったのは1979年だから36年振りになるね。(※)『Rise』を出した年だ。日本に行けることに興奮しているよ! "Bittersweet Samba"は演奏しなくちゃ。過去40年以上ラジオでプレイしてくれてるんだから。それからティファナ・ブラスのメドレーと、ラニがブラジル'66のメドレーをやるよ。あとはジャズを中心にいく予定だ。聴いていて元気になれるんじゃないかな。わたしは常にポジティブな音楽、聴き手がいい気分になれる音楽を作ろうとしている。新作『Come Fly With Me』からもプレイする予定だ。演奏曲の選択肢はたくさんあるからね。わたしたちも楽しんで演奏できるように、毎回セットを変えるようにしているんだ」(※1979年は来日のみ、日本での公演は48年振り)







(16mmフィルム付きジュークボックス(スコープティオン)の映像。映画監督ロバート・アルトマン作品)












 実に7,200万枚のレコードを売り上げてきたハーブだが、彼自身は今までどんな音楽を聴いてきたのだろうか。

 「わたしはクラシック音楽から始めたから、インスピレーションを得るためにベートーベンなどを聴く。それからプログレッシブジャズが好きだ。マイルス・デイヴィスはもちろんのこと、コルトレーンとかね。
 アートにはわたしの好奇心をそそる何かがある。素晴らしい絵画、彫刻、曲を特定するのは難しい。言葉に表せるようなレヴェルじゃないんだ。感じるか、感じないかのいずれか。それを分析しようとしたり、知性でとらえようとすると、その意味は分からない。だからこそいつも好奇心をそそられる。ラジオで聴いた曲が好きだとして、それが何で好きなのかは分からない。ただ、好きなんだ。マイルス・デイヴスが大好きなんだけど、彼の何が好きなのかが特定できないところを愛してるんだよ。彼は偉大なミュージシャンだ。だから何だっていうんだ? アートには偉大なるミステリーが潜んでいて、わたしはそこに一番興味を引かれるんじゃないかな。ポップミュージックはあまり聴かないね。敢えて距離を置いている。人の音楽をコピーしたくない。オリジナルになりたいんだ」























 ティファナ・ブラス時代からソロ・キャリアに至るまで、あの色っぽくセクシーで、情景が伝わるような音について、ハーブ自身がその秘密を解き明かす。

 「60年代に作られた音楽は今と大分違うものだった。当初はデジタルじゃなかったからね。60年代のレコーディングはほとんどがライブ演奏だった。ミュージシャンがスタジオに集まって、1セットで2、3曲録音するんだ。今よりずっと人間らしかったよね。演奏しているとミュージシャン同志の反応やケミストリーがある。
 それが今の世界ではちょっと違う。『Whipped Cream & Other Delights』(1965)の別ヴァージョン、『Rewhipped』(2006)というアルバムを全米のいろんなミキサーと一緒にやったんだ。彼らがミュージックファイルを送ってきて、わたしはそれで新しいトランペットを演奏して、そのトランペットの部分だけを彼らに送り返す。彼らはそれをレコーディングに入れて......
 わたしが言いたいのは、彼らには1度も会ったことがないってこと(笑)。とても冷たい設定なんだ、レコードはとてもいい仕上がりだったけどね。でもわたしたちはミュージシャンと同じ部屋で交流していないんだ、60年代とは違ってね。マーヴィン・ゲイやモータウンなど、60年代に作られた偉大なレコードを聴いていると、正に人々が一緒にレコーディングしている感じが伝わってくるんだ」



photography = Yuri Hasegawa
interview & text = Keiko Tsukada

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塚田桂子(つかだ・けいこ)
音楽の背景にある、人、文化、社会、政治を追うジャーナリスト。1995年渡米、NY居住を経て、現在LAを拠点に活動中。ヒップホップを中心に、インタビュー、リリック対訳、CDライナーノーツなど執筆多数。ブログ: hip hop generation (kokosoul.exblog.jp)

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