"Beyond Jazz" Artists You Need to Know:2020(1)〜キャメロン・グレイヴス | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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"Beyond Jazz" Artists You Need to Know:2020(1)〜キャメロン・グレイヴス

"Beyond Jazz" Artists You Need to Know:2020(1)〜キャメロン・グレイヴス
>>"BEYOND JAZZ" ARTISTS YOU NEED TO KNOW:2020(2)〜カッサ・オーバーオール

異色の音楽性を見せる気鋭ピアニストが
現代ジャズをさらに進化させる

 スタンリー・クラーク、カマシ・ワシントンにも愛されるキャメロン・グレイヴス。独創性あふれるその音楽性の全貌がステージで明らかに!

Text = Mitsutaka Nagira

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 カマシ・ワシントンの名盤『The Epic』は不思議なアルバムだ。このアルバムに漂うポスト・ジョン・コルトレーン系譜の要素からはホレス・タプスコットから受け継いだものが聴こえてくるのもあり、スピリチュアル・ジャズとして括られる部分もある。しかし、よくよく聴けば実に多様な要素を含んだアルバムであることに気づかされる。なかでも異質な存在として機能しているのが、ピアニストのキャメロン・グレイヴスだ。このアルバムで"ピアニスト"としてクレジットされているのはキャメロンだけだということをご存知だろうか。さらに言うと、この次のアルバム『Heaven and Earth』でも、ジャマル・ディーンが弾く1曲を除いて、ほかはすべてキャメロンによるもの。カマシ・ワシントン・バンドに鍵盤奏者はほかにいても、ピアニストは(ほぼ)キャメロン・グレイヴスだけなのだ。





「Change of The Guard」での印象的なリフからのソロ、「Fists of Fury」のソロなど、カマシ作品の重要なところには必ずキャメロンのピアノが配置されていて、そのピアノには強烈な異物感がある。それはロナルド・ブルーナーJr.のドラムやマイルス・モーズリーのベースと並び、カマシの音楽の振れ幅を担保していた最大の理由とも言えるだろう。また、10代から組んでいたヤング・ジャズ・ジャイアンツ、ネクスト・ステップといったグループで、ずっと一緒だったキャメロンがカマシに与えた影響の大きさも示している。

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Photo by Great The Kabukicho

 このことはキャメロンのソロ作『Planetary Prince』を聴けばわかる。カマシ周辺のLAコミュニティは音楽性に幅があり、グランジやメタルといったハードなロック・サウンドが大胆に取り入れられていて、それはカマシがロック系メディアやフェスでも高い評価を得た要因でもあるが、この点はキャメロンも同様だ。キャメロンはプログレやメタルを好み、なかでも北欧変拍子メタルの雄、メシュガーの影響を公言する。高度なリズムへの関心は、そのままインド音楽への関心に繋がり、さらにクラシック音楽の偏愛もあり、ジャズ・ピアニストでは真っ先にアート・テイタムを影響源にあげる。それは彼のピアノ・スタイルだけでなく、対位法的な作曲法からも窺える。そのモダン・ジャズにこだわらないピアニストとしての個性と、コンセプトの理解力の高さは、対位法をコンセプトに『Harmony of Difference』を作ったカマシとも通じるし、リズム面でのチャレンジも共通していると言えるだろう。そしてホーン・アレンジの巧みさからは、カマシのグループの同僚であるライアン・ポーターにも通じるアンサンブルの手腕が聴き取れる。ただ、キャメロンはそういった要素をカマシとはまったく異なる形、つまりアフロアメリカン的なスタイルではなく、クラシックやロック、メタル、民族音楽にあるエッジの部分をより鮮烈に使い、かつ前面に表出させながら、彼ならではのジャズ/即興音楽を作り上げている。メシュガーの影響を語るジャズ・ミュージシャンはティグラン・ハマシアンやアリ・ホーニグなどほかにもいるが、彼らともまったく異なる表現なのも独創的だし、フランク・ザッパのバンドでも活動してきたLAシーンのレジェンド(であり、カマシらとも交流があった)ジョージ・デュークから連なるジャズとして聴けば、その延長に『You're Dead!』以降のフライング・ロータスがいるとも捉えることができる。さまざまな文脈と接点を持った特異さもキャメロンの魅力だ。

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Photo by Great The Kabukicho

 そういえば、今年初めにブルーノート東京で行われたスタンリー・クラークの来日公演でキャメロンの演奏を見た。アフガニスタン出身のタブラ奏者サラー・ナダーとのトリオで、スタンリーやリターン・トゥ・フォーエバーの曲をトリオ向けにアレンジして演奏していた。キャメロンは、サラーのリズムに合わせてリズミックに演奏することもあれば、シンセを使ってインド音楽さながらにハルモニウムを模したようなドローンを鳴らしたり、スタンリーの代わりにベースラインを弾いたり、両手を別の楽器に振り分けてそのどれかを同時にやったりと、その能力の高さとセンスを見せつけていた。鍛え上げられた身体から伸びる腕はぶっとく、その先にある手指で鳴らされるピアノの音色は強く鋭かった。あのフィジカルの強さは生で見てようやく確認できたものだった。

 彼自身のバンドの音楽性はライヴ音源『Planetary Prince : The Eternal Survival EP』で聴くことができる。あの強烈なピアニストが自身の音楽を目の前でやってくれることに、僕は期待を膨らませている。




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『Planetary Prince』
(Mack Avenue Records / King International)

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柳樂 光隆(なぎら・みつたか)
1979年、島根県出雲生まれ。音楽評論家。『MILES:Reimagined』、21世紀以降のジャズをまとめた世界初のジャズ本「Jazz The New Chapter」シリーズ監修者。共著に後藤雅洋、村井康司との鼎談集『100年のジャズを聴く』など。
https://note.mu/elis_ragina
https://twitter.com/Elis_ragiNa

The EXP Series #35
CAMERON GRAVES
The EXP Series #35
キャメロン・グレイヴス

2.15 sat., 2.16 sun.

[1st]Open4:00pm Start5:00pm [2nd]Open7:00pm Start8:00pm

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公演詳細はこちら → https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/cameron-graves/

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