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NICOLA CONTE JAZZ COMBO featuring MELANIE CHARLES

artist NICOLA CONTE , NICOLA CONTE JAZZ COMBO

REPORT

新作を引っ提げたニコラ・コンテの
スピリチュアルでエモーショナルな世界


 約1年ぶりにブルーノート東京に帰ってきたニコラ・コンテ。つい2日前に3年ぶりのニュー・アルバム『フリー・ソウルズ』をリリースしたばかりで、文字どおりそのお披露目公演となった。もう何度も日本のステージを踏んでお馴染みのニコラだが、今回はその新作用にバンド・メンバーを替えてきた。昨年はティル・ブレナーと共演し、新星シンガーのザラ・マクファーレンをフィーチャーしたステージだったが、そうした点で彼のライヴにはいつも今までとは違う「何か」が用意されている。今回はその新しいバンドが目玉で、特に日本初お目見えとなるシンガーのメラニー・チャールズ、アルト・サックス奏者のローガン・リチャードソンにスポットが当てられた。ニコラを含めドラムのテッポ・マキネン、ピアノのピエトロ・ルッスら昔からニコラを支えるバンド・メンバーは欧州出身で、メラニーとローガンはアメリカ出身。欧州ならではの洗練されたスタイルと、アメリカの黒くスピリチュアルなフィーリングの融合がここのところのニコラのアルバムのテーマで、今回のステージはそんなニコラの世界をそのまま表すものと言えるだろう。

 オープニングは荘厳なモーダル・ジャズの「All Praises To Allah」。前作『Love & Revolution』収録曲で、レアグルーヴで評価の高いブッバ・トーマスによるライトメン・プラス・ワンのカヴァーだ。今夜のステージの方向性が伺えるスピリチュアルなムードの導入曲である。そしてメンバー紹介があり、メラニー・チャールズが登場。ダーク・スーツ姿のメンバーの中、白黒ボーダーと赤の切替しミニ・ワンピースの彼女は、一際ステージ映えする。彼女が歌う1曲目の「Soul Revelation」は、8ビートによるソウル・ファンク的なナンバー。かつての欧州ジャズのイメージからすると意外だが、『Love & Revolution』あたりからこうしたソウルフルな作品が増えているのだ。メラニーとローガンは、この『Love & Revolution』からニコラの録音に参加しており、今回のステージも新作と『Love & Revolution』からの曲が半々の割合だった。続く『Love From The Sun』は、ロイ・エアーズやノーマン・コナーズの演奏で知られる作品。それらがニュー・ソウル的なムードを持つクロスオーヴァー・サウンドであるのに対し、今度は逆に途中で4ビートへ切り替わるハード・バップ的なアレンジで演奏して新鮮だ。この曲はディー・ディー・ブリッジウォーターの持ち歌でもあり、そんなところからメラニーとディー・ディーの姿をダブらせずにはいられない。もちろん、今の円熟味溢れるディー・ディーではなく、デビューした頃の初々しい彼女にだ。そうしたメラニーの瑞々しさは、カル・マッセイ作でアーチー・シェップの演奏で知られる「Quiet Dawn」、黒人霊歌のように神秘的な雰囲気を持つ「Spirit Of Nature」といった静かなナンバーで、より際立っていた。後者はアビー・リンカーンやニーナ・シモンらの作品に通じるような歌で、ニコラが目指すスピリチュアルな世界とは、こんな作品なんだなと思う。

 もう少しわかりやすい形、つまりエモーションが爆発するようなスピリチュアル・ジャズは、ランディ・ウェストンの曲にリロイ・ジョーンズの歌詞をつけた「Black Spirits」で披露される。ここではトランペットとサックスの掛け合いが圧巻だった。ちなみに、メラニーは途中でボビー・ハンフリーのようにフルートを吹く場面もあったのだが、残念ながらこれはほんの触り程度。いつか、彼女の本格的なフルート演奏も聴いてみたいものだ。重厚でディープな世界が続いた後は、「Shades Of Joy」で再びソウルフルな世界がやってくる。ジャズ・ロック調のくだけたタイプの曲だが、演奏そのものはとても熱い。ここでのローガンのハード・ブロウは、彼本来の持味なのだろう。最後の「Love And Revolution」では、今までのダブル・ベース、アコースティック・ピアノからエレキ・ベース、エレピに変えたR&B調の演奏。でも、一般的なR&Bとなるのでなく、しっかりとプレイヤーのソロ演奏もあり、ジャズの骨格を残しているところがニコラらしい。メラニーに関しては、そもそもソロ活動ではソウルやR&Bもやっているので、こうした歌では水を得た魚のようだ。一方、ニコラは正直なところメインをメラニーやローガンに譲り、バンドをバックで統率するような役割だった。つまり、ジャズ・メッセンジャーズにおけるアート・ブレイキー的な役割。今回も新しい才能をいかに盛り立てられるか、そこにライヴの焦点があったように思う。

 アンコールは2曲で、「Goddes Of The Sea」は新作でホセ・ジェイムズが歌っていたが、今回はメラニーが歌う。メラニーは実際にアルバムで自身が歌った曲と共に、このようにアルバム内ではほかのシンガーが歌っていた曲もステージで歌い、本当にこの公演で大活躍だ。もう1曲はスタンダードの「Sometimes I Feel Like A Motherless Child」。もともとブルース色の濃い黒人霊歌だが、ここではゴスペル・タッチのR&B調でカヴァーしていた。実はこれ、キャスリーン・エメリーというマイナー歌手が1970年頃に歌ったヴァージョンにそっくり。レア・グルーヴやクラブ・ジャズ・シーンでとても人気が高い1曲で、このアレンジもDJのニコラならではのアイデアなんだなと、思わずニヤリ。最後は客席の手拍子も交えて大いに盛り上がって終わったのだが、ややそのエンジンの掛かりが遅かったかなという印象。初日のファースト・ステージだったので、まだ手探りのところがあったと思う。恐らく2日目の22日、モーションブルー横浜での23日のステージは、メラニーやローガンももっとバンドに馴染み、良くなっているのではないだろうか。そんな予感を抱かせるアンコールだった。

text : 小川充
音楽評論家・ライター。雑誌のコラムやCDのライナーノートの執筆、有線の選曲やコンピレーションの監修を手掛ける。主著は『ジャズ・ネクスト・スタンダード』『スピリチュアル・ジャズ』『ハード・バップ&モード』。


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●NICOLA CONTE JAZZ COMBO featuring MELANIE CHARLES
モーション・ブルー・ヨコハマ公演
2014 3.23sun.
詳細はこちら

SET LIST

2014 3.21 FRI.
1st
1. ALL PRAISES TO ALLAH
2. SOUL REVELATION
3. LOVE FROM THE SUN
4. QUIET DAWN
5. SPIRIT OF NATURE
6. BLACK SPIRITS
7. SHADES OF JOY
8. LOVE & REVOLUTION
9. GODDES OF THE SEA
10. SOMETIMES I FEEL LIKE A MOTHERLESS CHILD
 
2nd
1. ALL PRAISES TO ALLAH
2. SOUL REVELATION
3. LOVE FROM THE SUN
4. QUIET DAWN
5. SPIRIT OF NATURE
6. BLACK SPIRITS
7. SHADES OF JOY
8. LOVE & REVOLUTION
9. SOMETIMES I FEEL LIKE A MOTHERLESS CHILD
10. GODDES OF THE SEA

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