来たる3/29からの公演に向けて、小曽根真にインタビュー | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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来たる3/29からの公演に向けて、小曽根真にインタビュー

来たる3/29からの公演に向けて、小曽根真にインタビュー

小曽根真と北欧のレジェンドが生む生身むき出しのジャズ。

3月29日(木)、30日(金)の2日間4公演、小曽根真がECMレーベルでノルウェーのレジェンド、アリルド・アンデルセンのトリオと公演は、日本人未体験の音が体験できそうだ。

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――今回の公演のタイトルは「小曽根真meets"Free Spirit" -the Norwegian Jazz- featuring アリルド・アンデルセン、トミー・スミス、パオロ・ヴィナッチャ」ですが、そもそも北欧、ノルウェーのジャズとはどんな音楽なのでしょう。

 自由度が高くて、生々しいジャズです。僕たちがずっとやっているアメリカのジャズも、もちろん自由ではあるけれど、きちんと理にかなっています。ドラマーでいうと、ジェフ"テイン"ワッツにも、僕のトリオのクレランス・ペンにもすごくパッションがあります。それでいて、幾何学のような感じといったらいいのかな、根底にある理論はしっかりしています。アカデミックです。一方、ノルウェー人のアリルド(ベース)のジャズは、より生身がむき出しになったような演奏なんですよ。ものすごく高度な演奏技術を持ちながらも、生々しい。そして"ゴンタ的"というのかな。音もデカい。アリルドとトミーとパオロの演奏は、僕自身が何度でも聴きたい音楽です。

――彼らとの共演にいたったいきさつをうかがえますか。

 2016年6月にニューヨーク州のロチェスター国際ジャズ・フェスティバルに参加したのがきっかけです。僕のステージはトミー(サックス)とのデュオでした。そして、トミーはもう1つ、別のメンバーでも演奏することになっていた。アリルドとパオロ(ドラムス)とのトリオです。それで「マコトも2曲くらい弾かないか?」と誘われました。

――初めて一緒にやった印象は。

 リハーサルから、とにかく楽しかった。それまでに僕が体験したことがないジャズでしたからね。だからこそ、日本のオーディエンスにも聴いてもらいたいと思ったわけです。

――それまでに彼らとの接点は。

 トミーとはゲイリー・バートンのバンドで2年くらい一緒でしたけれど、アリルドとパオロとは初対面です。ただ、もちろん、アリルドのことは知っていました。ECMの重鎮ですから。トミーを介して、音楽的な交流もあったんですよ。1995年にスコットランド人のトミーが設立したビッグバンド、スコティッシュ・ナショナル・ジャズ・オーケストラのツアーのために、僕がチック・コリアとゲイリーの「クリスタル・サイエンス」のアレンジをしました。ツアーにはチックやゲイリーとともにアリルドも参加していて、彼が僕のアレンジを気に入ってくれた。

――アリルドたちは、いつもはトリオで活動しているわけですね。

 はい。彼らの音楽にはそもそもコード楽器が入っていません。ときどきゲストでピアニストを呼んでいるけれど、音楽が描く世界観が狭くなってしまうらしくてね。たとえばピアニストがCを弾くと、そのハーモニーのコンストラクションができちゃうから、ピアノが生むコードの枠の中に収めなくてはいけなくなり、自由度が少なくなる。それがあまり好きじゃないらしいんですよ。だから、僕は努めて流動的に演奏をしました。彼らの音に触発されるかたちで音を紡いだ。すると、彼らが応えてくれる。おたがいの音を聴き、フォードバックし、フィードバックされる。僕はすごく楽しかったし、彼らも楽しんでくれました。

――ニューヨークでの出会いの後の共演は。

 2017年11月にノルウェーでもやっています。同じメンバーで、フルセットで1時間40分くらいのステージです。ニューヨーク・フィルハーモニックの定期演奏会への出演でニューヨークに滞在している時期にアリルドから連絡をもらいましてね。「とても重要なコンサートがあるので、1日でいいからノルウェーに来てほしい」と。それで4日間捻出して、ノルウェーへ出かけました。

――コンサートではアリルドの曲を?

 ほとんどはアリルドの曲です。あとはトミーとパオロの曲を1曲ずつ。僕の曲はやっていません。ニューヨークでは僕はゲスト参加で2曲でしたけれど、ノルウェーではフルに参加したので、音楽で会話をかわしながら、かなりディープなところまで入っていきました。それがまた楽しくてね。もちろん決まったメロディはあります。でも、譜面に書かれていないところでは「次はどこへ旅しようか?」とおたがいの表情を確かめながら。僕が自由に演奏すると、アリルドが子どものように表情を崩して喜んでくれてね。ノルウェーでのライヴはミュージシャンとしての彼らにとって重要度が高いものでしたけれど、僕をわざわざニューヨークから呼んだことにはもう1つ理由がありました。

――それは?

 フェイスブックで本人がカミングアウトしているからここで話してもいいと思いますけれど、パオロはがんに侵されているんですよ。それもかなり深刻な。だから、どうしても僕を加えた4人で、もう1度やっておきたかったらしい。ノルウェーで再会したパオロはニューヨークのときよりもやせていたけれど、演奏は十分にエネルギッシュでした。抗がん剤をはじめとする化学的な治療は拒否して、オーガニックな食生活を中心に体を改造していると話していました。

――ブルーノート東京の公演はあらゆる理由で貴重なセッションになりますね。どんな選曲になりそうですか。

 まだ話し合っていませんが、アリルドの曲が中心になるんじゃないかな。僕の曲は、もしやるとしても、このメンバーのために新しく書いたほうがいいかもしれませんね。それくらい、いわゆるアメリカのジャズとはテイストが違うので。

――小曽根さんは3月7日にはニューヨークフィルとのアルバム『ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー、バーンスタイン:不安の時代』をリリースします(指揮・アラン・ギルバート)。そしてニューヨークフィルとの来日ツアーがあり、アリルドたちとのブルーノート東京公演があり、ほかにもピアノ・デュオやセッションも予定しています。ジャズからクラシックまで、たくさんのプロジェクトを並行して行う理由は。

 確かに多くのことをやっていますが、意図していろいろとやっているわけではないんですよ。目の前にある興味をひかれること、自分がやりたいこと、やれることに取り組んでいるだけです。ジャズもクラシックもね。チックもそうでしょ? クリスチャン・マクブライドとブライアン・ブレイドと日本に来たかと思えば、スタンリー・クラークとも来る。スティーヴ・ガッドとも。アコースティック・バンドも復活させた。興味のあることを次々とやっているんだと思いますよ。僕がずっと一緒に演奏しているビッグバンド、NO NAME HORSESが2019年に15周年を迎えるんですよ。それで、何か今までと違うことをやってみたい。ちょっと思いついて、プログレッシヴ・ロックの曲を書いてみました。ノーネーム用にね。実は僕、10代の頃、プログレが好きで、エマーソン、レイク&パーマーとかイエスの曲を演奏していたんです。ノーネームの演奏力があれば、十分にやれるので。すでに第3楽章まで書いて、練習しています。何の臆面もなくオヤジロック(笑)。迫力ありますよ。ジャズ、クラシック、ロック。全部楽しみにしていてください。

photography = Atsuko Tanaka
interview & text = Kazunori Koudate

神舘和典(こうだて・かずのり)
音楽ライター。1962年東京生まれ。『25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)『新書で入門 ジャズの鉄板50枚+α』(新潮新書)など著書多数。

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