[インタビュー|OFFSTAGE]クリス・シーリー | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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[インタビュー|OFFSTAGE]クリス・シーリー

[インタビュー|OFFSTAGE]クリス・シーリー

1本のマイクで、作曲したときの空気も伝える。

 ブルーノート東京で7月9日から12日まで4日間8公演行われた3日目の開場前、パンチ・ブラザーズは入念なリハーサルを行っていた。アーティストの多くは2日目以降、リハは気になるポイントの確認にとどめる。しかし毎公演セットリストを変えるパンチは、毎日が初日のような緊張感なのだ。

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「今日は11分を超える「ファミリアリティ」のチェックをしていたんだ。この曲は最初の2分が最重要。後半を情緒的にするために、導入はマシンのように正確に感情を一切入れずに演奏しなくてはいけない。だから何度も演奏と音響を確認した」

 そう話すのはリーダーで、マンドリンとヴォーカルを担当するクリス・シーリー。パンチの公演は初日から特別な盛り上がりになった。客席には明らかに音楽を熟知しているファンが集まっていた。

「みんなが僕たちの音楽をしっかり聴いてくれていることには驚いたし、とても嬉しかった。最新作だけでなく、前作の『燐光ブルース』の曲も、とても反応がよかった。演奏中に「Ahoy!」と掛け声をかけるときがあるんだけど、初日、みんなも一斉に応えてくれたことには、ほんとうにびっくりしたよ。あまりに嬉しくて2日目以降もやってしまったよ」

 パンチのショーの大きな特徴の1つに、1本のマイクでメンバー5人が歌い演奏することがある。

「マイクを1本だけにするメリットは、音量もバランスもすべてを自分たちでコントロールできること。マイクとの距離、メンバー同士の距離など、難しい問題はもちろんたくさんあるよ。でも、僕たちはツアーで寝食をともにしている。フロアモニターもイヤモニも使わないほど、コミュニケーションには問題がない。微妙な距離感を保つことがスリルになって、それが音楽に緊張感をもたらしてもいる」

 さらに、このスタイルはありのままの自分たちの音楽を伝えたい欲求も満たしてくれているそうだ。

「曲作りも、僕たちは同じスタイルでやっているんだ。5人で円を描いて演奏をしている。だから、曲が生まれ、構築していき、練習をしている僕たちの空気感をそのままステージで楽しんでもらえる」

 さて、パンチの最新作『All Ashore』はグラミー賞最優秀フォーク・アルバム賞を受賞。グラミーの栄冠は彼らの音楽の環境にどう影響したのだろう。

「率直にいうと、受賞前も受賞後も、僕たちの音楽そのものに変わりはない。必ずしも素晴らしい音楽がグラミーを獲るわけではないよね。音楽を取り巻くさまざまな要因で決まる賞だと理解している。授賞式の夜、僕はニューヨークのカクテルバーにいた。もらえるとは思っていなかったからね。すると、マネージャーから受賞を知らせる電話が来た。しかも、僕以外のメンバーはステージにいるという。でね、僕はものすごく嬉しかった。興奮して、そのバーにいる客に酒をおごりまくったほどだよ。グラミーによって音楽そのものや環境はあまり変わらない。でも、友人やリスナーは喜んでくれる。そのことはとても大切に思っているよ」

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Photo by Yuka Yamaji

PUNCH BROTHERS
2019 7.9 - 7.12
CHRIS THILE
(クリス・シーリー)
1981年、カリフォルニア州生まれ。新世代ブルーグラス・バンド〈ニッケル・クリーク〉に15年以上在籍、メジャー・デビュー後にリリースした3作品の売り上げが200万枚を超え、ソリストとしての活躍も含めその天才ぶりが注目を浴びる。

photography = Hiroyuki Matsukage
interview & text = Kazunori Kodate
interpretation = Kazumi Someya

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