初登場! ピンク・マティーニ | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

News & Features

初登場! ピンク・マティーニ

初登場! ピンク・マティーニ

音楽で世界を旅するピンク・マティーニ
唯一無二の音楽集団が待望の初登場

昨年、デビュー20周年を迎えたピンク・マティーニ。トーマス・ローダーデールを中心に、ジャズからラテン、世界の歌謡曲の数々まで、音楽の垣根を越え、時空を行き交い、楽しませる。華麗で優雅な世界が目の前に広がるときの醍醐味は格別。

READ MORE

 ピンク・マティーニの音楽に酔いながら、ふと目を閉じてみる。その瞬間、自分が何処にいるのかわからなくなる。混沌としたその状態に溺れるような感覚が、妙に楽しくてぼくは好きだ。例えば、そこは、パリの小粋なキャバレーかもしれないし、イタリアの雨に濡れた路地裏かもしれない。あるいは、ブラジルでサンバのパレードに紛れ込み、慌てている我が身が見えるかもしれない。いや、ハバナでダイキリを手に酔っぱらってる姿も、悪くない。

 目を開けて現実に戻る。ステージの上ではトーマス・ローダーデールがテキパキとピアノを奏で、チャイナが優雅に歌いあげている。二人を中心に、お洒落にきめた男たちが、ドラムスやベースを、トランペットやトロンボーンを交えながら、ジャズを、ラテンを、クラシックを、時には、世界の歌謡曲を楽しそうに演奏している。その賑やかな光景にも、ワクワクさせられる。

 という訳で、ピンク・マティーニの音楽は、とにかく、楽しい。一般的には、ジャズ・オーケストラと呼ばれているらしいが、彼らを、そうやって、畏まった呼び名でジャンルに閉じ込めるのは勿体ないくらいだ。古いハリウッド映画に題材を求めたものから、フランスだろうが、トルコだろうが、ルーマニアだろうが、ギリシャだろうが、国境や人種、文化や言語の垣根を軽々と飛び越え、全く新しい景色にぼくらを運んでくれる。それでいて、その景色は、何処か懐かしくさをともなっていたりするからたまらない。

 もともとは、米国オレゴン州ポートランドで、トーマス・ローダーデールを中心に誕生した。クラシックのピアノを学び、古いハリウッド映画やミュージカル映画、その周辺の音楽に夢中になり、マルクス兄弟のコメディに心躍らせる少年だったというトーマスだ。1997年、アルバム『サンパティーク』でデビュー、それがフランスで話題になって世界中にその存在が知られていく。由紀さおりとのアルバム『1969』の成功で、日本でもすっかりお馴染みだ。

 先ごろ、その『サンパティーク』の、デビュー20周年記念盤が発売されたばかりでもある。ずっとこぼれたままだった「ボレロ」を、今回は収録、トーマスが描いていた通りのアルバムが、20年後に改めて完成したということになる。フランス語で、「感じが良い」とか、「好ましい」とかの意味を持つタイトル・ソングは、トーマスと、看板女性シンガー、チャイナのオリジナルだ。軽妙なスウィング感をともないながら、フランスの古いラジオから流れてくるような、それもスタンダードかと勘違いしそうな見事な曲になっている。

 そうやって、オリジナル作品も素晴らしいが、ピンク・マティーニの音楽の大きな持ち味は、アイディア溢れるカヴァーが沢山あることだ。世界のいろんな地域の、そこでの人々の暮らしに彩りを添え、豊かにしてきた音楽の数々をぼくらに紹介してくれる。ここでも、古いハリウッド映画『ギルダ』からの「アマード・ミオ」、ヒッチコック映画『知りすぎていた男』からの、ドリス・デイの歌でお馴染みの「ケ・セラ・セラ」、映画『日曜日はダメよ』からアカデミー歌曲賞を受賞した同名の主題歌等々、聴きどころは限りない。

 コンサートでは、アンコール・ナンバーとしてお馴染みの「ブラジル」もここから始まった。ブラジルが生んだハリウッドの大女優カルメン・ミランダが、1943年、映画『ザ・ギャングス・オール・ヒア』の中で、例のフルーツ・ハットで歌い、人気を決定づけた曲でもある。日本の歌謡曲も例外ではない。ここで、映画『黒蜥蜴』からの美輪明宏の主題歌をやっているが、これまでにも、由紀さおりとの「タ・ヤ・タン」、ザ・ドリフターズの「ズンドコ節」、和田弘とマヒナスターズの「菊千代と申します」等々を楽しませてきた。

「メロディーが美しいこと、それがいちばんだね」、トーマスが選曲に際してずっと心掛けていることらしい。世界のいろんな言語が飛び交うその選曲にも、彼の独特の美学が、一貫して流れていることを見過ごしてはならない。そして、なによりも、彼らの音楽を聴いていて思うのは、世間と少し考えが違っていたりするために辛い思いをしたり、孤独に襲われたり、それでも、自分を信じ、何かと戦いながら日々を過ごしている勇気ある人たちに、彼らの音楽は敬意を惜しまず、そういう人たちへの優しさに溢れているということだ。ピンク・マティーニの音楽は、とびきり楽しいが、人間が抱える悲しみや切なさもちゃんとわかっていて、ぼくらを癒したり、励ましたりもしてくれる。笑顔をもたらし、気づくと、その笑顔に素敵な涙を誘ったりもするのだ。

映像を見れば"ジャズ・オーケストラ"だが、一括りにするのが勿体ないほど、そのサウンドはあらゆる時代や国のポップソングを融合し、全く新しい景色を我々に運ぶ。また、お洒落な男たちとともに、チャイナ・フォーブスがショウを華やかに彩り、まさにブルーノート東京ならではの醍醐味が堪能できるライヴとなる。
https://www.youtube.com/OfficialPinkMartini

text = Yasufumi Amatatsu

天辰保文(あまたつ・やすふみ)
音楽評論家。ロックとその周辺の音楽について、新聞や雑誌やウェブ等を通じて評論活動を行っている。著書に、「ロックの歴史~スーパースターの時代」、「ゴールド・ラッシュのあとで」等々がある。

Cocktail & Something Chic


本公演に"ちょっとおしゃれ"をしてご来店いただいた方には、ピンク・マティーニとブルーノート東京のコラボレーションカクテルをプレゼント。

RECOMMENDATION