来日目前!オマール・ソーサが創造する新プロジェクトの魅力に迫る! | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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来日目前!オマール・ソーサが創造する新プロジェクトの魅力に迫る!

来日目前!オマール・ソーサが創造する新プロジェクトの魅力に迫る!

"鍵盤の魔術師"が、注目の女性ヴァイオリニスト
凄腕パーカッショニストたちと繰り広げる魅惑のステージ

二世代のキューバ出身アーティスト、異形のピアノ・マスター&気鋭のヴァイオリニストが天才的手腕で、ベネズエラ出身パーカッショニストとともに描く、壮大な"水"のストーリー。アフロスピリットに導かれた、生気みなぎるユニークかつディープな極上ワールド、"アグアス・トリオ"のステージを見逃すな!

photography = Massimo Mantovani [main photo], text = Yumi Sato

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 一度でも彼のステージに触れたことがある方なら、きっとお分かりいただけるだろう。静謐と躍動が巧みにせめぎ合う、アフロスピリットみなぎる遊び心に満ちたそのプレイの真価を。長い両手を広げて聴衆を抱擁する、屈託のない笑顔と天衣無縫なその人柄を。1994年の初来日以来、すっかりお馴染みとなったユニークな異形のピアノ・マスター、オマール・ソーサ。4年半ぶりのブルーノート公演で披露される新規プロジェクトのテーマは、ズバり"アグアス=水"だ。

 水は自在に形を変え、エネルギーとパワーで破壊と創造を繰り返す。生きとし生けるものすべてに生気をもたらし、大気中の雲霧はもとより、地上のせせらぎ、湖水、河川、海洋、氷河、はたまた地下水脈へと姿を移しながら、普遍的に地球に存在するもの......。待望の最新アルバム『アグアス』では、さらに老子の高名な思想を引用しながら、変化する水の在り方を自らのポジションや感性になぞらえている。

20181006_OMARSOSA_LIVE.jpg Photo by Takuo Sato

 今回タッグを組むのは、オマール・ソーサと同じくキューバ生まれ、才気あふれるヴァイオリニスト&ヴォーカリスト、ジィリアン・カニサーレス。二世代のアーティストは、ともに若き頃にキューバを離れ、現在はヨーロッパに軸足を置き、ルーツを見据えたディープかつワールドワイドな活動に専心中だ。90年代に南米エクアドルへ飛び、その後スペインのマジョルカ、米国サンフランシスコ、オークランド、バルセロナと拠点を移し、今はメノルカに暮らすピアニスト。かたや、十代でクラシック修行のためベネズエラ、スイスへと渡り、今もローザンヌに住むヴァイオリニスト。二人は幾度となく海を越えて、クラシックと伝統音楽の研鑽を積み、故郷やアフロルーツの源流を探求しながら、独自のワールドジャズを展開してきた。あたかも自由闊達な二つの水脈が、形を変えながら谷を刻み、やがて大海原へと辿り着くように。

 オマールとジィリアンの出会いは、2014年8月。フランス東部、スイスのジュネーブにほど近いシャトー・クレアモント・フェスティバルでのことだったという。ジィリアン率いるカルテット"オチュマレ"(虹の意)が、オマール率いる"クアルテート・アフロクバーノ"のステージでオープニングを務め、たちまち意気投合。交流が深まったそうだ。先の老子『易性第八』は、銘酒の名前にもある「上善水のごとし」で始まる。「最善の者は水のような人。水は万物を潤し、しかも争わず、人が見下ろす最も低いところに留まる......」と説く。おそらく両者の美徳である謙虚さや誠実さが、水の喩えとして現れたに違いあるまい。

 もう一人、今回の"アグアス・トリオ"に欠かせないのが、ベネズエラ出身でアフロベネズエラ&アフロキューバ音楽に長けたパーカッショニスト、グスタボ・オバージェス。オマールにとって20年来の盟友、グスタボが奏でる絶妙な効果音は、水のイメージをいっそう鮮明化するはずだ。

 水の旅路という遥かなストーリーを、繊細かつ大胆なアンサンブルと歌(ジィリアンのヴォーカルはスペイン語、フランス語、ヨルバ語で歌われる)で存分に堪能させてくれる"アグアス・トリオ"。彩り豊かなサウンドの中に、そっとヨルバ伝統の祈り歌も紡がれるだろう。人を大洋の彼方へといざなう水は、また人を故郷と隔て、郷愁を掻き立てるもの。だから底流には、キューバの濃密エッセンスがたっぷり。始まりの一滴から荒ぶる奔流のうねりまで......聴く者の心を潤す、水の物語が描かれていく。スイス、ドイツ、フランス公演に先立つ、壮大なプロジェクトのワールドプレミア(!)となる渾身のステージを、ぜひお見逃しなきよう。


佐藤由美(さとう・ゆみ)
中南米音楽の専門誌、フラメンコ専門誌の編集を経て、現在はフリーランスの音楽ライター。ラテン音楽Webマガジン「eLPop(エルポップ)」メンバーとして活動中。

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